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それから間もなくして、スーツの男性は暫く部屋を空ける事が多くなった。時間になっても帰って来ない。帰って来たかと思うと、大荷物を抱えてまた何処かへ行ってしまう。
暫く使う暇もないと思われたのか、電源を切られたねこはその理由を聞く事も出来ずに、ただじっと、部屋の中でスーツの男を待ち続けた。
「ねこさん、一緒に来てもらえますか」
電源を入れられたのは、何日ぶりだろうか。目の前に現れた、ずっと待ち続けていたスーツの男性は、いつものように微笑んでいた。
「何処へですか?」
「旦那様のいる、病院です」
老人はもともと病気を患っており、それがとうとう悪化しているのだという。病院へと担ぎ込まれて以来ずっと入院しているが、症状は良くならないらしい。
「旦那様は、もう長くはありません。旦那様自身もそれを分かっていらっしゃるようで……最期に、ねこさんにも話がしたいと」
「ねこと?」
「はい……」
スーツの男性も、その真意が分からないようで、困った顔で首を傾げていた。
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