ありがとうねこ

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 病室につくと、老人が起き上がって窓の外を眺めているところだった。 「起き上がっていて、大丈夫なのですか?」 「……漸く来たか。待ちくたびれたわ」  老人は相変わらずの怪訝な表情で、ねこを見た。 「お前は、『ありがとう』を言うロボットだそうだな?」 「ねこはロボットではありません。『ありがとうねこ』です」 「そんな毛もなければつるつるの身体のくせにか」と老人は耳を掻いた。 「……お前は毎日、こいつに『ありがとう』を言っていたのか」 「はい」 「お前に関係のない事にもか」 「はい」 「ふうん……お前はそれで良かったのか」 「……え」  いつの間にか老人の目はスーツの男性を捉えていて、スーツの男性はその事に動揺した様子だった。 「感謝されたいという感情を持ち合わせていたのに、感謝される相手は誰でも良かったのか」  スーツの男性はまた黙り込んだ。  すると、老人はあからさまに溜息をついて、また窓の外を見た。 「……最初はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったよ」  老人の声色が変わった。スーツの男性がはっとして顔を上げたが、彼はまだ窓の方を見ている。
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