秘密の子

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 自分の言葉はイーリャに届いただろうか、とマツリカは思った。でも、届いてなくても構わない。忘れられても、また何度だって言えばいい。 「さて、と」  装置を回収し、自身の痕跡を消し終えたマツリカは、家を出て、闇夜に紛れた。世界は静止したように静かだ。このサイの時間、灯台は莫大な情報の処理のために、他の活動を停止させる。マツリカにとって唯一、自由に外を出歩ける時間だ。  とはいえ、念のため隠れながら、工場の潜伏場所へ向かった。マツリカはそこで、一人遊びしながら時間をつぶす。ガラクタを積み、塔を作る。 「がおー」  そして、それを崩した。  ──父さんはいつも、私のことを不自由で、気の毒だと嘆く。でも、それはどうだろう。確かに私は、もしかすると、何処へも行けず、何にもできないままなのかもしれない。  でも、想像するなら何にでもなれる。世界を滅ぼす怪獣にだって。世界を救う英雄(ヒーロー)にだって。  頭の中はいつだって自由だ。  何処にだって行けるし、何にでもなれる。  何時だって、私は、あなたとの思い出を思い出すことができる。あなたが全部忘れても、私が全部覚えてるから。  ──世界に音が戻ってきた。朝が来たのだ。 「そろそろ、仕事に行ったころかな」  これから何をしようか。  とりあえず少し、寝よう。あの人が仕事を終えて、帰る頃まで。それから、またあの人に会いに行く。  出鱈目な歌声を追いかけて、何度でも。
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