2人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の言葉はイーリャに届いただろうか、とマツリカは思った。でも、届いてなくても構わない。忘れられても、また何度だって言えばいい。
「さて、と」
装置を回収し、自身の痕跡を消し終えたマツリカは、家を出て、闇夜に紛れた。世界は静止したように静かだ。このサイの時間、灯台は莫大な情報の処理のために、他の活動を停止させる。マツリカにとって唯一、自由に外を出歩ける時間だ。
とはいえ、念のため隠れながら、工場の潜伏場所へ向かった。マツリカはそこで、一人遊びしながら時間をつぶす。ガラクタを積み、塔を作る。
「がおー」
そして、それを崩した。
──父さんはいつも、私のことを不自由で、気の毒だと嘆く。でも、それはどうだろう。確かに私は、もしかすると、何処へも行けず、何にもできないままなのかもしれない。
でも、想像するなら何にでもなれる。世界を滅ぼす怪獣にだって。世界を救う英雄にだって。
頭の中はいつだって自由だ。
何処にだって行けるし、何にでもなれる。
何時だって、私は、あなたとの思い出を思い出すことができる。あなたが全部忘れても、私が全部覚えてるから。
──世界に音が戻ってきた。朝が来たのだ。
「そろそろ、仕事に行ったころかな」
これから何をしようか。
とりあえず少し、寝よう。あの人が仕事を終えて、帰る頃まで。それから、またあの人に会いに行く。
出鱈目な歌声を追いかけて、何度でも。
最初のコメントを投稿しよう!