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イーリャは、途中の段にしがみついたままの左腕を拾い上げると、仕事場へと駆け込んだ。
「お前さ、頭のネジが外れてるんじゃないか」
作業場で、真っ先に自身の修復に取りかかるイーリャを見て、同僚のシシトはそう声をかけた。
「ご心配なく。頭のネジも全て点検しました。これでも修復士の端くれですので」
「そう言う意味じゃない」
やがて、修復を求める破損者たちがちらほらと仕事場にやって来たので、仕事に取りかかる。
イーリャは、破損者達を次々と、順番に自身の作業場に招き入れる。
「はい、済みましたよ。次の方ー」
淡々と、破損者たちの破損部品を外し、新しい部品に付け替え、修復していく。
「今回はどうされました?」
「ああ、でしたら、こちらの部品を変えましょう。機体部品なのでお安く済みますよ」
「そうですねぇ、それは生体部品なので、どうしても値が張ります。なにせ、生体部品を作るのにはかなりの手間と時間が要りますから」
破損者たちは、途絶えることなく作業場に押し寄せる。結局、対応時間目一杯、費やしてしまった。
けれども、仕事はまだ終わりではない。次は、部品の生産工場に赴き、その品質の管理に勤めるのだ。この日のイーリャの担当は、生体部品の生産工場だった。
ああ、そういえばとイーリャは思った。
──そういえば、居たな。子ども。この世界にも、一応。そう呼ぶに近しいモノが。
「働け、働け、ふんふんふ〜ん」
工場に入ると、沢山の円筒状の水槽が立ち並んでいる。その一つ一つ、ピンク溶液の中には、小さな人型が浮かんでいる。それらは、全て旧人類の幼体なのだ。
「異常なし」
イーリャは、意識を持たない幼体に向かって、意味もなく語りかける。
「働き続ける私たちは、社会の部品です。そして、あなた方は、私たちの部品」
水槽に備えられたレバーを押す。すると、中の水圧が一気に変動し、幼体の身体は液体の中で爆ぜた。細かくなったパーツは、全て上部の管に吸い込まれ、適切に振り分けられる。必要な臓器は十分な大きさになるまで、個別の培養ラインへ。不要な部分は、処理場へ。空になった水槽に、イーリャは新たな幼体の核をセットする。
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