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ずっと昔──もう何千年も前のことだ。大きな変革が起こった。重大な目的のために、人々は一つになり、自らと世界のあり方を変えようとした。まず実施されたのが、人類の脳の機械化だった。やがて、身体全体の構造も変化させた。樹脂製の外殻に、金属繊維の神経回路、しかし、いくつかの主要な臓器は、人工物で代用することが出来ず、未だ生体のままだ。
新しい人類は、それらのパーツを交換することで、半永久的に命を存続させることに成功した。この工場は、生体の部品を造るために必要な設備だ。
「異常なし。こっちも異常なし」
イーリャは、幼体の臓器に問題はないか、点検して回った。幼体たちは、身体の総重量が20kgを超えるまで、人型の姿を保ったまま、麻酔剤入りの培養液の中で育てられる。これは、旧人類の6歳児にあたる重さだ。その後は、腑分けされ、必要な臓器のみをそれぞれ充分な大きさになるまで育て、パウチ詰めにし、商品とする。それらの工程は、全て自動的に行われる。だから、イーリャは、幼体と商品の点検だけすればいい。とはいえ、膨大な量なので、なかなかに大変なのだ。
仕事を終え、イーリャは歌いながら夜道を歩く。
「今日もお疲れ、ふんふんふーん」
いざ帰宅と、ドアに手をかける。その時だった。
「なアッ!?」
何者かが、背後の暗闇から飛び出してきて、イーリャを羽交い締めにした。すぐに口も塞がれ、声を出すことも出来なくなる。抵抗を試みるイーリャの耳元で、その何者かは囁いた。
「ありがとう。マヌケな修復士がいてくれて、助かった」
「ンー、ッ」
「だまれ。動くな。わたしを中に入れろ。逆らえば殺す」
こくこくと、必死に頷く。恐怖に駆られたイーリャは、指示に従うしかなかった。
ドアを開け、中に入ると、その何者かも中に入ってくる。ドアの閉まる音がして、もう逃げられないと悟る。恐る恐る、振り返ろうとするも──
「動くなッ!」
「ヒッ!」
背後でゴソゴソと何かを取り出すような音がした。
「向いていい」
「ハイッ!」
振り返り、初めてその人物の姿を目で捉えた。その人物は右手に銃のような物体、左手にドライバーのような工具を持ち、両方をこちらに突き付けている。しかしイーリャは、そんな物はどうでも良くなるくらいの衝撃に打たれていた、今、目前に居る、この人物、この姿は──頭が追いつかない。
「えっ、え?」
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