秘密の子

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 それで、つい、口に出してしまうのだ。 「だまれ!父さんを悪く言うことは許さない」  しかし、「父さん」のことを否定的に言うと、マツリカは激昂する。イーリャには、そんな彼女のことが哀れに感じられた。この世界では、隠し事を続けることは何より難しい。秘密はいずれ暴かれるものだ。だから、きっと「父さん」はもう処分され、存命ではないのだろうとイーリャは思った。本当に、無責任極まりない。 「ねむれない」  ある夜マツリカはそう言って、イーリャの元に来た。 「眠り方をご存知ないぃ?そんな初歩的なことを?はぁぁ〜!?」 「うるさいな」 「いいですかぁ?『何時より就寝開始。何時にアラームセット』と声に出せば、それが聴覚より伝達され、脳内で自然にそう設定が」 「わたしの頭はそんな風にできてない」 「えっ、じゃあ、知りませんよ」 「本読んで」  本を手渡され、渋々それを読み始めた。古い物語で、恋愛を描いたものだった。 「──そして二人は、永遠に幸せに過ごしました」  イーリャもこの本が好きだが、内容の大部分は理解できない。 「私には、愛というものが分かりません。私たちの殆どには家族もなければ、子どもを産み育てることなどあり得ませんから。……マツリカなら、分かりますか」  問いかけるも、返答はない。 「寝てる……」  マツリカのことは、本当に分からない。そんなマツリカとの日々は、不思議と楽しいものだった。 「ふんふふ〜ん」 「だまれ、料理中は。指を落とすぞ」 「あっ」 「いわんこっちゃない」  変わらなかったはずの自分が、変化していく。 「パピリ菜なんてよく食べれますね」 「好き嫌いはダメって、父さんは」 「知りませんよ。数千年来の食わず嫌い、舐めないでください」 「食べてみろ、イーリャ。お前の消化器部品がかわいそう」 「えぇ〜……あ、美味しい」 「ほらぁ」  でも、こんな日々は、もう長くは続かない。その時が、刻々と迫っているのだ。マツリカは何時イーリャを殺すのだろう。彼女はどうして、こんな世界で、生きようと足掻くのだろう。 「父さんが言ってた。わたしは、世界を壊しかねないおそろしい存在なんだって」  遠くを見つめながら、マツリカは言う。 「父さんは、わたしに世界を壊して欲しかったのかな。ねぇ、イーリャはどう思う」  今度は、イーリャの目をじっと見据えた。 「イーリャは、幸せ?」
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