ありがとう

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 ありがとう。  声が聞こえる。この部屋のどこかから。けれどこの部屋には私一人しかいない。こんな小さくて物も少ない部屋、すぐに全体を確認できる。  幻聴だろうか、そう思ったところでもう一度声が聞こえる。  ありがとう。  幻聴なのかもしれない。それならなぜこの声はありがとうと聞こえるのだろうか。私が何か感謝をし忘れたと後悔していることでもあるのだろうか。  ありがとう。  もう一度聞こえる。いや、今度の声は少し違う。今までは一つの声だった。今度の声は二人が息を合わせているような、重なった声だった。どうして。もう一度この部屋を見回す。やはり誰もいない。  ありがとう。  また聞こえた。今度は少しずれていた。もしかしたらもう二人分どころかもっといる声になっているのかもしれない。けれどもう判別できない。  ありがとう。ありがとう。ありがとう。  回数がどんどん増える。どうして。 「なんで」  声が漏れる。その途端、ありがとうと言っていた声が全てぴたりと止まる。そして今度は声にならない音にわっと襲われる。なぜかその音の感情だけは伝わってくる。歓喜。  全身に何かが触る感覚がある。何もない。何も見えないのに感覚ははっきりとある。身動きが取れなくなる。顔にも何かが触れる。息ができない。思わず目をつぶる。その上から押さえつけられるような感覚がある。  怖い、と思ったところで意識が途切れる。
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