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この街で、君たちに出会えたのは、俺にとって良かったのか、悪かったのか。 (頭がぼーっとしてきた) 俺はようやく着いた裏山にそびえる大木の、その幹に背中を預けた。とたんに立っていられないほどの疲労感に捕らわれ、ずるずると根元にしゃがみ込む。 かすむ目に、遠くに黒々とした煙が勢いよく上っているのが映る。夜遅いはずなのに、そこだけ明るい。 (家に火を放って、すべて消し去るつもりか・・・) 頭を幹に持たせ、大きく息を吸った。鋭い痛みが、脇腹の上と左太ももに走った。 「くっ・・・」 止めた息を静かに吐き出す。脂汗が額に浮かぶ。 脇腹を押さえている手をそっと離し、目の前に掲げて見た。真っ赤に濡れている。 細く息を吸い、静かに吐き出す。痛いのか熱いのかわからなくなってきていた。 帰宅してリビングに入ったら、問答無用で撃たれた。2発。 どっちも弾は抜けている。でも、助からないだろう。ここまで歩いてくる間に、だいぶ失血した。 留まっていたからといって、助かったわけじゃない。あの炎に包まれ、焼かれていただけだ。 (あの両親(ひとたち)、どんな失態したんだ?) 俺にはどんな任務なのかは知らされない。ただ、家族としてコミュニティに入り込み、偽の家族だと怪しまれていないか、普通に見えているかどうかに心を砕き、少しでも疑念を抱かれたらそれを報告するのが役目だった。正体がばれそうなら、行方をくらます。そうして痕跡を残さず、存在を消し去るのが、いつものやり方だ。 すでに何回かやっている。俺は無難に役目をこなした。子供の役を、うまく演じた。
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