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「昨晩の火事で村の大半が焼けてしまいました。約半分は村人とともに鎮火したのですが、残りは未だに炎に包まれています。幸い村人は全員無事という話を聞きました」
「お父さんとお母さんも無事なんだ!」
紗月は顔がパッと明るくなったのが自分でも感じ取れた。
「おそらく。避難所にいると思いますよ。食事を摂ったら探しに行きましょうか」
「うん!」
紗月は一刻も早く両親に会いたくて、率先して食事の手伝いをした。コウの朝ごはんは肉。自分は芋。水春は綺麗な水だった。水神様は綺麗な水が好物らしい。
食事を終えてから避難所に着くまで、紗月は気が気ではなかった。水春は途中で火の様子を見てくると言って村の方に行ってしまったのだ。別れる前、水春から「皆大なり小なり怪我をしている」と聞いてからは両親に会えるという喜びより、両親が重症を負っていたらどうしようという不安の方が勝つようになってしまった。コウが一緒にいてくれるとしても、会話ができる水春と離れ離れになってしまったことは、今の紗月にはきつかった。
「ここが、避難所……」
何とか火事を免れた道場が避難所らしい。
コウが紗月の背中を鼻先でぐっと押す。まるで「早く会いに行け」と言っているようだった。不安が現実になっていませんようにと祈りながら道場に足を踏み入れる。
ぺたっという足音に何人か紗月の方を振り向いた。その中には腕や足に紫色の軟膏を塗っている人、包帯を巻いている人、水疱ができている人がいた。
——皆静かだ。
火事の前は村のどこを歩いていても誰かの笑い声が聞こえたが、今は誰の笑い声も聞こえない。耳をすませば「家も金もなくなった。怪我が治らないことには働けないし、働けたとして、農具はどこで調達できるのか。これからどうして生きていけばいいのか」ばかり聞こえてくる。
「命だけあっても生きていくのは難しいもんね……」
ぼそりと紗月は呟いて、両親を探すために足を進めた。両親を探そうと周りを見るたび、意気消沈した人の顔や火傷や怪我に苦しむ人の顔が目に入ってくる。そんな顔を見るたび紗月の胸は鋭利な爪で引っ掻かれたように痛んだ。
「母さん、父さん」
両親を見つけ、小さく声をかけた。
「紗月……っ!」
母が涙ぐんでいる。父も一晩姿を見せなかった紗月が現れたことに喜んでいる様子だった。
「母さんと父さんはあんまり怪我してないみたいだね」
服の下は分からないが、見える部分に包帯や軟膏が塗られていないところを見て紗月はほっとした。
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