水神様と出会った時

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「実は父さんの火傷は酷かったの。逃げるときに転んでしまった母さんを助けようとして背中に大きな火傷を負ってしまったのだけど、何か白くて小さな犬が父さんの背中に近寄るとその火傷が消えてしまって……」  気が動転して見間違えただけだと思うけれど。と語る母に父も神妙にうなずいている。紗月だって今朝、水春に会わなければその類の話は信じなかっただろう。そして白い犬にも少なからず心当たりがある。  ー—でも、あんな巨大な犬を小さいなんて言うわけないよなあ……  そういえば道場まで案内してくれたコウはどこにいるのか。外で水春を待っているのかと思いながら辺りを見回すと、人の合間をぴょこぴょこと飛び跳ねるように移動する小さい白犬が2匹見えた。しかし周囲の人はそんな犬がぴょんぴょんしていることに何の関心も示していない。 「紗月?」 「あれが助けてくれた犬?」 「え? 犬なんている?」  母は紗月の指さした方向に顔を向け、必死に目を凝らしているようだったが犬の姿は全く見えていないようだった。その間も犬はぴょんぴょん元気に怪我人の周りを飛び跳ねている。 「ちょっと行ってくる」  両親にそれだけ告げ、小さな白犬のもとに移動した。 「あなた! 腕の怪我が!」  途中で女の声が聞こえ、そちらに顔を向けた。  そこは先ほどまで犬が飛び跳ねていたところだ。  紗月は驚く男女を見た。男は驚きが度を越えすぎて言葉も出ないようだった。男の綺麗な腕を見て、目に涙を浮かべながら女はしきりに良かった良かったと繰り返している。  母の話を聞いていた紗月はあの小さな白犬が治したのだと思った。今度こそ白犬に近づき、胸に抱きあげる。  ……あれ、白犬の目が黄金色に輝いている。朝もそんな犬を間近で見たような。  そう思った瞬間、白犬は身を捩って紗月の腕から飛び降りた。 「あ……」 「こら、コウの邪魔をしてはいけませんよ」 「……っ!水神様」  ぱっと振り返ると水春が紗月の真後ろに立っていた。神様だからか全く気付かなかった。 「村の火はすべて消えました。後はここにいる人達の傷の手当ですね。……おや、珍しい。コウが息切れ気味ですか」  水春は足元にとっとっと寄ってきた2匹の白犬を抱き上げて労わるように撫でる。そして「コウは狛犬なので2匹に分裂することも可能なんです。2匹に分かれた方が治療する力が上がるみたいですね。後は狭い場所に入りやすいらしい」と説明してくれた。 「最近大きな災害などもなかったので、コウも力をうまく扱えていないのでしょう。残りの方はコウが回復するまで薬で対処していただくしかありませんね」  水春が言い終わるとコウはキャンッと吠え、手足をバタバタさせて暴れて始めた。
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