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「あなたを慕う村人のことを救いたい気持ちは分かりますが、あなたが力を使いすぎ、この世にいられなくなっては元も子もないでしょう」
だから今は神社に帰りますよ。そう言って水春はコウをあやす。
水春に抵抗までして村人の怪我を治そうとしてくれているのだと思うと、紗月はコウに感謝せずにはいられなかった。
「コウ。村人を、父さんを助けてくれてありがとう」
紗月は水春の腕の中でジタバタしているコウに礼を告げ、その頭を優しく撫でた。
「私にできること、何かある?」
コウが体を張って村人の怪我を治してくれていると知って、紗月も自分にできることはしたいと思った。
自分の住んでいる村のために。村を守ってくれている水春とコウのために。
「あるにはあるが……。君は何歳か」
水春が問う。
「12歳だよ」
「そう。誰かのために動きたいと思う心はとてもすばらしいことです。人のためにした行動が必ず自分に返ってくるとは限らない。それでも、人のために行動を起こすたび誰かの心にそっと明るい光を灯らせることができるでしょう。……コウ?」
水春に抱かれているコウが2匹そろって紗月の袖を口にくわえて精いっぱい引っ張っていた。離しなさいと窘める水春の声も聞かずにぐんぐん引っ張る。
水春は仕方ないと言いながら紗月にコウを2匹とも抱かせた。その内1匹が紗月の腕から飛び降り、尻尾を振りながらとてとてと紗月の前を少し歩いて振り返る。
「コウが君に治療に必要なことを教えたいらしい。着いていってあげてください」
「うん!」
紗月が勢いよく答えるともう1匹も紗月の腕から飛び出し、2匹とも嬉しそうに激しく尻尾を振って駆けていった。
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