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「ここは……?」
「ちょっとした薬草園ですよ」
広い場所に出たからか1匹にまとまったコウが道案内をしてくれた。コウの後を追ってついた先は神社の裏にある畑のような場所だった。真冬なのでほとんど薬草は見当たらない。
「だいだいの薬草は初冬に収穫して乾燥します。そして種を植えるのは冬を越した後です。だから今この薬草園はただの土のみです」
水春の説明にコウもそうだと言わんばかりに吠えた。それからコウは薬草園の近くに設置されている小屋に向かって走り出す。
「あそこに乾燥させた薬草を保管しています。その中から必要な薬草を必要な分だけ取り出して薬を作るんですよ。私も手伝いますが、ほとんどはコウだけで調製してくれます。ただの犬っころなのに頼もしいでしょう?」
ふふ、と水春が笑う。最後の部分だけ声を落として紗月に伝えたのは、コウに聞かれると怒られると思ったからだろう。意外と茶目っ気のある水神様だなと紗月は思った。
「さて、火傷に効く軟膏を作りましょうか」
巨大な犬に戻ったコウは軟膏薬に必要な薬草を必要な分だけ器用にくわえ、せっせと机の上に運んでいた。
「あなたはその棚にある鍋を取ってくれますか?」
水春に言われ、紗月は食器棚から鍋を取り出し机の上に置くと、コウがそこにぱらぱらと砕いた薬草を入れていった。本当に器用な獣だと感心しながら眺めていると、今度は水春が油のようなものをポイっと鍋に放りこむ。
「これを火にかけて混ぜます」
水春は火を起こす作業に入っていた。神様ってこんなに人間くさくて良いんだろうか。鍋に具材を入れる狛犬も自力で火を起こす神様も聞いたことがない。何か信じられない力でささっとやってしまうのが神様だと思っていた。
火を起こし終えた水春は「混ぜてみますか」と問うてくる。紗月はこくりと頷いて鍋と棒を水春から受け取った。
混ぜている間、水春とコウが紗月の手元をこれでもかと言うほど覗き込んでくる。紗月は初めて落ち葉を使って焼き芋をした日を思い出した。あの時は母が家事をしながらしきりに紗月のところにやってきた。皆、心配性すぎるのだ。
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