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「これくらいで良いでしょう」
水春の言葉にコウもそれでいいと鳴く。
「後は茶こしで薬草を取り除いて、冷まし、容器に入れるだけです」
茶こしを使うのは危ないですから、私がやりますねと言い水春がてきぱきと作業してしまう。その手際の良さはもはや庶民だ。
「神様っぽくないね」
ぽろっと紗月の口から本音が漏れる。水春は苦笑しながら口を開いた。
「他の神様たちからもそう言われます。でも、こうして村人が祀ってくれるんですから、これくらいのことはやって村人にお返ししないと」
「水神様は優しい神様だね」
「そんなことはないですよ。もちろん自分のしたことで喜んでくれる人もいます。ありがとうとひとこと言うために神社に赴いてくれる人もいます。でも、自分の領域外の問題で縋られても助けることはできません。そんな時はよく罵られました。それが辛くて、人助けなど全て止めようと決心した時期もありました。しかし、神様として生まれてしまった性格なんでしょうかね、助けれらる人を助けられないことが苦しかった。だから、今は救える人を救っているだけ。結局自己満足なんですよ」
水春の顔が苦く歪む。色々な経験を一気に思い出してしまったような顔だ。
「自分の満足のために動いて何が悪いの? 私だって今、私や父さん母さん、村人を助けてくれた水春とコウの力になりたくて動いているよ? これって私の満足のためじゃないの?」
「そんなことはない。君は立派だ」
水春は紗月の目を見てしっかり言い張る。
「なら、水神様も自己満足なんかじゃないよ」
紗月の言葉に水春は一瞬だけ泣きそうな顔をしたと思えば、難しい顔になってしまった。
キャンとコウが鳴く。軟膏壺をグイグイと紗月の腕に押し付けていた。
「軟膏壺に入れて村人のところに持っていきましょう」
水春は元通りの澄ました顔に戻り、何ともなかったように軟膏を壺に移し始める。紗月も水春のようには上手く入れられなかったが、何とか壺に軟膏を移した。
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