その言葉

「私のお父さんね、お母さんに全然ありがとうとか言わなかったの」
　ああ、私と同じなんだ。
「だから私ね、家のことやる程度じゃありがとうなんて言わなくていいのかなって思ってたの。でもね、貴女がいつもありがとうって言ってくれるでしょう？　それでああ、ちょっとしたことでもそういうやり取りがあると嬉しくなるんだなってわかったの」
　そうか、私と同じような家で育って、それなのに結論はそんなに違うところだったんだ。
「私仕事見つけられてないでしょ？　だから家のことしかできないから、それをやるのは当たり前だと思ってたの。けど、貴女が毎回その当たり前にありがとうって言ってくれるの、すっごい嬉しいの」
　そうだったんだ。
「だからね、ありがとう。いろんなこと、ありがとう。私と付き合ってくれてありがとう。私にいろいろ教えてくれてありがとう。いっぱい、ありがとう」