0人が本棚に入れています
本棚に追加
その3
”いよいよ来たわ…!あの時、私が聞いたはずの声が本当なら、今日、人類は滅亡する。でも、なんなのよ、そんな前兆ちっともないじゃん!”
M美はついに迎えた運命の日、会社員の夫と小学生の長男を普通に家から送り出し、いつものように家事を済ませるとリビングのソファーへ腰を下ろし、テレビを見ながらそう呟いていた。
テレビのワイドショーでは、この日も、”様々な出来事”を報じていたが、さすがに人類を滅亡させるのではないかと思えるまでのニュースは皆無だった。
要するに、この日も昼時までは、”いつも通り”のごくありふれたで日常だったのだ。
ここに至り、M美はさすがに12才だった自分の聞いた声が、幻聴、乃至は気のせい…、少なくとも神の声ではなかったと自身に結論付けることができた。
”ハハハ…。これで何も起こらなきゃ、それに越したことないよ。ふう…、とにかくこれで長年のモヤモヤを消せるわ。よかった~~❣”
夕刻時のなって、リビングのソファーに腰を下ろし手にしたレモンティーを一口のどに通すと、彼女の安ど感は全身を貫いたようだった。
無理もない…。
子供の頃から本気で信じたことを誰に話してもスルーされて、悶々としながらここまで年を重ねていったのだ。
”神様、なんでワタシなのよー!”と、何度心の中で訴え叫んだことか…。
ある時期から”割り切り”はできたが、それでも一種良心との葛藤はいつも抱えていたのだ。
今の夫と結婚する時も、そのことを話すべきか黙っているべきか、ものすごく悩んだ。
結果、彼には”それ”を告げないで一緒になったのだが…。
で…、夫のT男には今日まで話さないままであったのだ。
無論、小学校に上がったばかりの長男にも…。
”ふふっ…、結局話さないで正解だったのよね。だって、人類滅亡なんて、とんでもないことなど起こらなかったんだもの…”
そんな思いを胸に去来させると、急に眠くなって、彼女はそのまましばらくウトウトと寝息を立てていた。
やがて、これもいつも通りに夫と子供が我が家に戻り、夜7時過ぎには家族3人で楽しい夕食のひと時を過ごす…。
この日は麻婆豆腐であったが、言うまでもなく、M美にとっては過去食べたなかで最高の味だったに違いない。
だが…。
この時のM美には、あの声が宣じた期日、12月1日がまだ半日残っていることは頭から抜け落ちていた…。
最初のコメントを投稿しよう!