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第15話
居間の暖炉に再び薪をくべ、冷え切ってしまった彼の身体を温めた。
この部屋にはケーキもシャンパンも無く、キリスト教徒が聖誕祭を祝うようなアイテムは何も無いが、揺らぐ炎が照らす彼の顔だけで、俺は誰よりも厳かな気持ちになっていた。
カップに注いだ熱いスープを飲んだ彼は、黙って俺の隣りに座っている。
愚にも付かぬものと思っていたインスタントの食品も、こういう時には役に立つものだ。
ずっと黙り込んで身を硬くしていた彼も、暖かい部屋とスープとで大分気持ちが落ち着いたらしく、寄り添ったままで俺を見上げてきた。
炎を映して揺れる黒い瞳は、不安に押しつぶされそうな気持ちまで余さす物語っていたが、俺が側に居る事で、彼はとても安堵しているようだった。
「…レン、俺は一体なんだ?」
さぁ、なんだろう?
彼の質問に対する正しい答えは、俺にもまだ見つかっていない。
だって、俺は俺自身の正体さえも知らないんだから。
「なんの為に、存在しているんだろう?」
それは、俺にも解らないよ。
俺の答えに、彼は大きく息をついた。
「オマエ、不安じゃないの?」
そうだな。
俺は…、たぶんとても苛立っていたと思うよ。
不安ってモノを、感じた事は無いけど。
だって俺は、ずっとこうだったから。
シュウイチみたいに、いっぺんに何もかもが変わっちまって、全部無くしちゃった訳じゃないから。
「…俺、どうしたら良いんだろう?」
何一つ答えが見つからず、途方に暮れたように彼は俯いてしまう。
その肩に腕を回し、俺はそっと彼を抱き寄せ耳元を愛撫した。
「レン?」
なぁ、シュウイチ。
確かに俺達ってなんの為に存在しているのか、判らないし。
その事を深く考えると、スゴク虚しくなる。
俺だって、以前はずっとそうだったし、だからとてもイライラしてた。
でも、今は違う。
お前には、まだ解らないかもしれないけど、今の俺は全然苛立ってない。
ずっと抱えてた虚しさも孤独感も、こうやってお前を抱いていると綺麗に無くなっちゃうんだ。
どうして俺達がこんな風に存在してるのかは、解らない。
でも、これだけは絶対に言えるよ。
お前は、間違いなく俺の為に存在してる。
俺が孤独に押しつぶされないように、俺が虚しさのあまりに狂ってしまわないように。
そして俺は…。
俺は、お前の為だけに存在してる。
そんな風に全部を失ったお前が、不安に駆られて誰彼構わず傷つけたり、そんなくだらない事で人間に追われない為に。
俺達は、そうやって寄り添いあって生きていく為に、互いに互いが絶対に必要なんだ。
そうだろう?
今は、それだけで充分じゃないか。
そう、思わないか?
「レン…、俺は…」
彼は、ギュッと俺に抱きついてきた。
俺も彼を抱きしめる。
巡り会えた。俺の宝物。
俺を、この孤独から解放してくれる唯一の存在を…。
*Silver Moon:おわり*
First update:05.12.23.
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