雨の眠り方

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米をずっと噛んでいれば餅になる。 エドワード・モースは縄文時代の人物である。 町田市は神奈川県である。 昔の夢から目を覚ますと、雨の音が聞こえてきた。 雨粒がぱちゃぱちゃとコンクリートに跳ねる様子が目に浮かぶ。外は雨でも街灯のおかげで、カーテンの向こうはうっすら明るい。 ユキくんも今、この雨に耳を傾けているだろうか。それとも、ぐっすり眠れているだろうか。 ◇◇ おとなりさんだったユキくんとは、小学校中学年くらいまでよく一緒に遊んでいた。 公立だった私と違って、ユキくんは名門の私立小に通っていた。なので私と彼の関係は常に“おとなりさん”であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。 同い年なのに物知りで、大人っぽい喋り方をするユキくんのことを、私は尊敬していた。 しかし彼は、うそつきであった。 エドワード・モースは確かに日本で貝塚を発見したけど、それは明治時代の話である。 餅米でなければ餅にはなれないし、町田市は神奈川だ。 彼はこれらをうそだと理解したうえで、私に教えた。 当時の私は「そうなんだ!」と目をきらきらさせながらうなずいていた。つまり、毎回だまされていたのだ。 ユキくんは私に何かを教えるとき、テレビに出てくる専門家のおじさんみたいに、色素の薄いおでこにしわを寄せながら仰々しく話した。それは、彼のうそに妙な説得力を持たせた。 ユキくんが教えてくれること全てがうそだったら、私はさっさと愛想を尽かしていただろう。しかし教えてくれることの四割は真実だったので、私はこりずに彼から知識を分けてもらっていた。 とはいえ、うそをつくのはいかがなものか。
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