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二番手の幸福を
ベラが国王に嫁いだ理由などシンプルなものだ。男の権力に魅かれたから、ただそれだけのことである。そうでもなければ、由緒正しき伯爵家の娘であった自分が、あんな太った愚鈍な男の妻になることを承伏するはずがないのだから。
前の妃が亡くなってからたった一年で新しい妻を娶るとは。実の娘も気の毒なことである。まあ、ある意味不憫なのは自分も同じなのかもしれない。国王がベラを選んだのも単純に“前のお妃様より美しかったから”というだけであるし、国王がベラのことを夫として愛していないことは明白であったからである。彼はただ、美しいものを自分の隣に置いてはべらせたかったからだけだ。娘が一人いるということもあって、子供を新たに作ることさえ考えていないのは透けている。そうでなければ、嫁に来て半月も過ぎるのに、閨に呼ぶどころか手に触れることさえほとんどしない、なんてことはあり得ないだろう。
醜い容姿の国王は、頭の中身もからっぽであるようだった。この国がいまだまともに国として体裁を保っていられるのは、ひとえに優秀な家臣たちのおかげであるのは明白だった。他の兄弟姉妹がみんな流行り病で死んでしまった結果やむなく国王の座に座ったという彼。先代の父王もさぞかし無念だったことだろう。大体、娘に“白雪姫”なんて名前をつける時点でセンスが終わっているとしか思えない。成長した娘がデブスになったら本人がどれほど周囲に影口を叩かれるのか、それさえ想像がつかなかったのだろうか。
――まあ、幸いそこそこ美人には育ったようだけど。忌々しいことに。
名前だけの妃だとしても、一応自分が彼女の義母になるということになる。嫌々だろうと面倒だろうと、彼女の教育は自分がきっちりしなくてはいけない。
父親に似て頭がお花畑の娘は、王女だというのにマナーの多くがなっていなかった。今日も今日とて、ディナーの時間にベラは声を張り上げることになるのである。
「スノウ!また間違えてるわ。フォークを逆手で握ってはダメと教えたでしょう!?」
「!」
十二歳にもなるはずのスノウだというのに、両親によほど甘やかされて育ったのかナイフとフォークの持ち方さえなっていない。口で説明してもよくわからないようなので、ベラはため息をつきながらも席を離れて彼女の傍へと向かった。無駄に大きい長テーブルをぐるりと回ると、彼女の手に自分の手を添えて指示を出す。
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