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「そもそも、肉を食べる時は右手にナイフ、左手にフォークよ。貴女は右利きなんだから難しくないでしょう?ちゃんとお肉は切って食べなさい。フォークで突き刺して噛みつくなんてはしたない真似をしてはいけないわ。家族で食べる時はまだしも、あなたは将来の女王なのよ?人前でやってごらんなさい、貴女どころか家族みんなが恥を掻くことになるわ」
「……ごめんなさい、お母様」
「それと、食べ始める前のお祈りをまた忘れたわね。私達はみんな、神様の恵みを頂いているのよ。ちゃんと手を合わせてお祈りの言葉を言ってから頂くように。王女が罰当たりなことをするもんじゃないわ」
「はい……」
少々厳しい物言いをしているのはわかっているが、どうしても我慢がならなかった。血も繋がっていない大嫌いな娘だが、それでも自分は彼女の義理の母親としてこの場にいる。その責任をまともに果たさなければ、自分の両親にも家にも泥を塗ることになりかねないからだ。何がなんでも、このしょうもない白雪姫を、将来の女王として立派な存在に育てなければいけないのである。
本来こういうのは妃ではなくて、専用の教育係の仕事だろうと思うのだが――その教育係達も、娘を持て余しているのか甘やかしているのかちっとも注意らしい注意をしてくれない。ただでさえ愚鈍な夫のフォローに走り回る日々なのに仕事を増やさないでくれ、というのがベラの本心だった。
彼女に言わなければいけないことは他にもある。嫌がられるだろうが、仕方ない。
「それから。食事のあとは、また私の部屋に来なさい。あなたは国語のお勉強が足りてないわ。丁寧な言葉づかいから、手紙の文法まで。きっちり叩き込んであげるから覚悟なさい」
「……はい」
俯いた彼女の顔は、ベラには見えなかった。きっと泣きそうになっているのを必死でこらえているのだろう。泣きたいのはこっちも同じだと言いたい。嫁ぐまでは、まさか次期女王がここまで不出来だと思ってもみなかったのだ。否、国王と妃がここまで娘をまともに教育していなかったことに驚かされた、と言い換えてもいいかもしれないが。
まるで自分が悪役じゃないか、と腐りたくなる。多くのイライラを、彼女にぶつけているふしがあるのは否定しないが。
――ああ、ほんと計算違いもいいところだわ。国王の権力で、自由気ままに楽で贅沢な生活ができるとばかり思っていたのに!
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