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ベラの実家であるアディントン伯爵家には、国王も知らない秘密があった。――代々、黒魔術を受け継ぐ魔法使いと魔女の一族である、という秘密が。
この国で、魔法は悪魔の秘術であるとして禁止されていた。アディントン伯爵家は地下の秘密の部屋で、いつもこっそりと儀式を行っていたのである。ベラもまた、そんな力ある魔女の一人であったのだった。
王宮の東の塔には、ベラだけが入れる特別な部屋がある。この世界の理を全て熟知した、魔法の鏡。先祖代々伝わるこの秘宝を、ベラは一族から受け継ぎ、嫁入り道具として王宮にまで持ち込んでいたのだった。
「鏡よ鏡、我が問に答えなさい」
窮屈な宮殿生活で、唯一の楽しみと呼べるのがこの夜の時間。
ベラは魔法の鏡に問いかける。いつもの、自分が最も好む質問を。
「この世界で、一番美しい女はだぁれ?」
伯爵家の厳しい教育を耐え抜き、天才的な頭脳を持ち、素晴らしい魔法の才を持つという自覚があるベラ。だが一番自信があることは、眩いまでの己の美貌だった。国王が一目で自分に惚れ込むのも当然のこと。社交界でも、何処に言ってもベラは家族に友人に知人にと、多くの者達からその美貌を褒め称えられて育ってきたのである。
この鏡にも、いつも同じ問いを繰り返してきた。そのたびに鏡は言うのだ。世界で一番美しい女性は、あなた様です――と。世界一。最高の美貌。その言葉だけが、今のベラの自尊心を満たし、窮屈で腹立たしい毎日を忘れさせてくれる美酒になりうるのだ。
ところが。この日、鏡は全く別の言葉を告げてきたのである。
『世界で一番美しい女性は……貴女の義理の娘。スノウ・ホワイト様です』
「……なんですって?」
よもやその最大のアイデンティティが、たった十二歳の小娘に打ち砕かれることになろうとは。
ベラにも、全く予想だにしなかったことであったのだ。
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