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確かに、スノウは美しい娘ではある。だが、まだあどけないし童顔であるし、出るところ出てなければひっこむところがひっこんでいると言えるほど理想的な体型でもあるまい。何がどうして、彼女が一番美しい女性だなんてことになるのだろうか。
――絶対にこんなことあってはならない。許されない!なんとしてでも、あいつを一番の座から引きずり降ろしてやらなくちゃ……!
だが、自分は妃で彼女は国王の一人娘。さすがに王国として、跡継ぎがいなくなる状況は避けなければいけないし、さすがに自分も物理的に危害を加えるまでのことはしたくない。
ならば、あの娘を精神的に追い詰めて、やつれさせてしまえばいいのでは?とベラは思いついた。つまり、彼女が大嫌いであろう勉強責めにしてやるとか、ネチネチとちょっとしたことに目くじらを立てて苛めてやるというのはどうだろう?自分の評判も多少下がるかもしれないが、そもそも義理の母親が娘を厳しく指導するのは当たり前のこと。言っている内容にある程度筋が通っていれば、誰も自分を咎めることなどできまい。
思い立ったら吉日、ベラはその翌日からさらにスノウへの攻撃を厳しくしていったのだった。
「スノウ、いつまで寝ているの!朝は七時には起きてお祈りをするのが礼儀でしょ忘れたの!?」
「使用人に対するすの態度はなんなのかしら?ドレスを一人で着ることもできない可哀相なお姫様を手伝ってくれているのよ、ありがとうの一言くらいは言ったらどうなの!?」
「ぼそぼそ喋るんじゃない!やり直し!」
「何よそのステップは!?ダンスは淑女にとって基本中の基本でしょ、舞踏会で恥を晒したいの!?大体、そんな風に無理に足首を捻ったら痛めるじゃない、後先考えなさい!」
「だから声が小さいのよ、もっと堂々と胸張って歌いなさいよみっともないわね!」
「いい?万年筆の握り方はこう、こうよ!……ああもう、手本見せるからその通りにやりなさい、いいわね!?」
「スーノーウ!?泣いて誤魔化しても無駄よ。花瓶を割ったのはジュリアじゃなくて貴女でしょ!人に濡れ衣を着せるなんて、人間として一番やってはいけないことなのよわからないの!?」
自分でも、声を張り上げる機会が増えたと思う。萎縮しても仕方ないくらい、ねちねちと厳しい指導をしたつもりだった。ところが――ベラが王宮に来てから一カ月、二か月、三か月過ぎても。鏡の言葉は何も変わらなかったのである。
「鏡よ鏡、我が問に答えなさい。この世界で、一番美しい女はだぁれ?」
『世界で一番美しい女性は……貴女の義理の娘。スノウ・ホワイト様です』
「――っなんでよ!何であの子は挫けないの!?窶れて醜くならないの!?」
思わずヒステリックに叫んだベラに、鏡は少しの沈黙を挟んで、こう告げたのだった。
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