二番手の幸福を

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『ベラ様。……スノウ様が世界で一番美しい女性になられたのは、貴女様が王宮に来てからのことなのです』 「どういうこと?」 『お気づきになりませんか?貴女様が、彼女を美しい女性にしたのです。今の時間、彼女はこっそりと夜更かしをして日記を書いております。確かめに行かれるとよろしいでしょう』  どういうことなのだろう。ベラはすぐに塔を出ると、透明になる魔法をかけてスノウの部屋に向かったのだった。彼女は丁度眠ったところであったらしい。すやすやと、随分満足そうな顔で眠っている。  丸テーブルの上には、彼女が書いたと思しき日記が出しっぱなしになっていた。片づけはちゃんとしなさいって教えたのに――と心の中でぶつくさと言いながら日記を開いたベラは、眼を見開くことになる。 『〇月〇日。  今日も、お母様は私に構ってくれている。怒るとちょっと怖いけれど、知らなかったことをたくさん教えて貰えてとても嬉しい。全部私の為に言ってくれているのがわかっているのが本当に嬉しい。前の、私の本当のお母様はしてくれなかったことだ。  新しいお母様の目には、ちゃんと私が映ってくれている。  どうすればいいのか困ったら教えてくれる、助けてくれる。  血がつながっていないお母様は、子供を愛してくれないって聞いていたけど、そんなのうそっぱちだった。死んだ前のお母様より、私は今のお母様の方がいい。だって前のお母様はお父様のことばっかりで、私のことは空気みたいに無視してばっかりで、ちっともお話してくれなかったから。  明日は何を教えてくれるのかな。  私、お母様が望むような、立派な女王様になりたいな。』 「……馬鹿じゃないの」  思わず、呟いていた。魔法のおかげで、自分の声はスノウには聞こえない。ぽたり、と落ちた涙に気づかれることはない。 「人が……人がしてきたことを、こんな風に……本当に、頭がお花畑だわ……」  気づいてしまった。以前の妃が、あんなブ男にも関わらず国王を溺愛し、生まれた娘に見向きもしなかったことを。むしろ、邪魔者扱いしていて、だからこそ教えるべきことを何も教えずにきたことを。  そんな彼女にとって、指導という名目とはいえ、毎日構ってくれる新しい母親の存在がたまらなくうれしかったのだろうということを――そして。  多分自分に指導されて、俯いていた彼女は。本当は泣きそうになっていたのを堪えていたのではなく、笑ってしまいそうな自分を隠そうとしていたからで。 ――笑顔が増えたから、美しくなったってこと?  こんなことで、絆されたりしない。だって彼女は、自分の本当の娘じゃない。 ――……迷惑よ。迷惑なだけだわ。だから。  嬉しくなんかない。  そう呟いた言葉は、ぱたりと閉じられた日記と共に、闇の中に溶けたのだった。
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