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本当に、らしくないことをしていると思う。
ナイフがかすった肩の傷が痛い。やや顔を顰めながらも、スノウの手を引いて歩くベラ。馬は連中の矢でやられてしまったので、帰りは徒歩になってしまった。多少距離はあるが、歩けないほどではない。思いのほか大立ち回りをしてしまったし、時間を喰ってしまった。今頃城は大騒ぎだろう。普通に考えて叱られるのは自分も同じだな、とベラはちょっとだけうんざりした。
「お母さん……お母さん、ごめんなさい。ごめんなさい……」
「煩い。泣くんじゃない。悪いと思ったなら、二度と護衛もなしに出歩くなんて真似するんじゃない。いいわね?」
「うん、うん……ごめんなさい。お母さんが、一人で、外で遊んじゃいけないって言ってたのに、破ってごめんなさい……!嫌いにならないでえ……!」
「……あのねえ」
王宮まで、あと少し。丘の上まで来たところで、ベラは立ち止まった。自分よりずっと背が小さい娘に顔を合わせて、その額をぴんっと指で弾く。
「嫌いになるわけないでしょ。あんたは……私の娘なんだから」
今の汚い泣き顔の状態なら。あの鏡に問いかけてもきっと、“世界で一番美しい娘はコレです”なんて馬鹿なことは言わないだろう。
でも、今は。さっさとこの娘に泣きやんで欲しいと思っている自分がいるのだ。まだ、これがちゃんとした母親の愛情であるかなんて自分でもわからない。血が繋がらない娘を、どこまで正しく愛せるかなんて自信はない。それでも。
彼女が浚われたと知って、いてもたってもいられなかったこと。
誰にも見せないと決めていた魔法を使って盗賊たちを皆殺しにしてまでスノウを助けてしまったのは、紛れもない事実で。
「だから本当に、これからは気を付けて。……わかった?」
「うん。……ねえ、お母さん。お母さんは……私のこと好き?本当の、娘でなくても、好き?」
卑怯なガキめ。
それがわかっていても、ベラはもう彼女を撫でる手を止めることができなかった。
「……好きよ、当たり前でしょ」
ああ、この子の次点であるのなら。
自分は永遠に、世界の二番手で構わない。
そこに世界で一番の幸福があるのなら。
「良かったあ……!」
ベラの言葉に、スノウは笑顔の花を咲かせた。
馬鹿らしいと思いながらも――ベラもまた、その唯一無二の一輪を、そっと抱きしめていたのである。
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