21人が本棚に入れています
本棚に追加
「しかし君にも、そんなに何か月も悩むってことがあるんだねえ」
匡久は誠志郎の隣にしゃがみこむ。
「当たり前ではないか。名前など一生ものなのだから」
だが、誠志郎といえば何でも即断即決、一刀両断というイメージが強すぎて、こんなに頭を抱えている彼を見ると、匡久はつい、からかいたくなってしまうのだ。
「そろそろ戻ろうか」
昼休みも終わりだ。時計を見て、匡久は言う。
「そんな時間ですか」
誠志郎はぼやいて時計を見、立ち上がる。
非常階段を下りて、詰所に向かう。
途中の廊下にも、誰が世話してくれるのか、花が活けてある。
「ガーベラちゃん、フリージアちゃん」
「まだ言っているのですか。特に花の名前でなくてもいいのだが」
「そうだなあ。でも、百合子さんの娘だからね」
「私の娘でもあるのですが」
「そりゃそうだ」
笑いながら、匡久は相変わらず花の名前を挙げていく。
「そうだ、パンジーちゃんが嫌なら、すみれちゃんは?」
「悪くはないが……」
「これがブレストの効果だ」
「……」
「ご不満のようだね」
視線の先に、匡久は花瓶を見つける。
「お。カーネーションちゃん、カスミソウ……かすみちゃん?」
誠志郎は、はっとしたような顔をした。
「それにします」
「え?」
「かすみにします」
「おい、そんな簡単に決めるなよ。なんで急に」
「気に入りました」
それだけ言うと、誠志郎は歩調を緩めずにスタスタと歩いていく。
「え? おーい」
最初のコメントを投稿しよう!