花の名前【妄コン「花ひらく」優秀作品】

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「しかし君にも、そんなに何か月も悩むってことがあるんだねえ」  匡久は誠志郎の隣にしゃがみこむ。 「当たり前ではないか。名前など一生ものなのだから」  だが、誠志郎といえば何でも即断即決、一刀両断というイメージが強すぎて、こんなに頭を抱えている彼を見ると、匡久はつい、からかいたくなってしまうのだ。 「そろそろ戻ろうか」  昼休みも終わりだ。時計を見て、匡久は言う。 「そんな時間ですか」  誠志郎はぼやいて時計を見、立ち上がる。  非常階段を下りて、詰所に向かう。  途中の廊下にも、誰が世話してくれるのか、花が活けてある。 「ガーベラちゃん、フリージアちゃん」 「まだ言っているのですか。特に花の名前でなくてもいいのだが」 「そうだなあ。でも、百合子さんの娘だからね」 「私の娘でもあるのですが」 「そりゃそうだ」  笑いながら、匡久は相変わらず花の名前を挙げていく。 「そうだ、パンジーちゃんが嫌なら、すみれちゃんは?」 「悪くはないが……」 「これがブレストの効果だ」 「……」 「ご不満のようだね」  視線の先に、匡久は花瓶を見つける。 「お。カーネーションちゃん、カスミソウ……かすみちゃん?」  誠志郎は、はっとしたような顔をした。 「それにします」 「え?」 「かすみにします」 「おい、そんな簡単に決めるなよ。なんで急に」 「気に入りました」  それだけ言うと、誠志郎は歩調を緩めずにスタスタと歩いていく。 「え? おーい」
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