08 いいじゃん、ネーチャン

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 そのあと、遥奏と僕は木々やススキに隠れながら川岸を歩いて、卓球部から十分離れたところに移動してから、河川敷を出た。  そして遥奏に連れられるままに歩くと、僕は駅に到着していた。  遥奏がどこに行くつもりかわからないけど、今更拒否する気も起きなかった。  並んで歩いてみると、遥奏の身長は僕よりほんの少し高いくらい。いつも、河川敷で会うときほとんどの時間僕は座っていたから、よくわからなかった。  保健体育の授業で、女子の方が成長は早いと聞いたことがある。これから、僕の成長期が本格的に進んでいけば、遥奏よりも背が高くなるのだろうか。  電車の中で、僕は遥奏に事情を説明した。 「わかるわかる! サボりたくなる時もあるよね!」 「遥奏も部活とかサボったことあるの?」 「いや、私はないけど!」  ないのかよ!  脳内で突っ込みながらも、否定したりせずにそっとしておいてくれたのはありがたかった。 「でもさ」  遥奏が顔を近づけてきた。ドキリとして、思わず半歩下がる。 「サボるのはまあ確かに良いことじゃないけど、そのおかげで秀翔と私はこうして出会えたわけだし、結果オーライじゃない?」 『ご乗車、ありがとうございました……』  ナイスタイミングのアナウンス。 「降りなくちゃ」  僕は会話を強制終了して、遥奏と一緒に電車を降りた。  少し大きめの駅。 「えーっと、こっちだ!」  『東口』という標識が示す矢印にしたがって迷いなく歩く遥奏に、僕はついていく。  やがて自動改札機にたどり着くと、遥奏は自然な動作でカードをタッチし、改札の外に出た。  僕も遥奏の後に続いて、パスケースを改札機の画面に当てる。  すると、  ピピーッ!  耳障りな甲高い音がしたと思うと、僕の腰のあたりで扉が閉まった。  カードをタッチした画面に、赤い文字で『残高不足』。 「もう、ちゃんとチャージしといてよ!」  遥奏が改札の向こう側でいたずらっぽく笑っている。  いや、電車乗ると思ってなかったし!  「ちょっと待ってて」と遥奏に声をかけ、改札から右手にある『のりこし精算機』と書かれた黄色と白の機械に向かった。  そんなに頻繁に電車に乗る用事もないし、最低限でいいかな。  そう考えて、千円札一枚だけを機械に入れる。  処理が終わるのを待って、戻ってきたカードをパスケースにしまった。  人混みをかいくぐって改札を出る。  遥奏のもとへ向かおうとして、足が止まった。 「……いいじゃんネーチャン、ちょっとくらいさ」  見知らぬ少年が、遥奏の左手首を掴んでいる。
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