09 それ、趣味って言えるの?

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 弟さんが去ったあと、僕は遥奏に連れられて駅から数分のドーナツ店に入り、テーブル席に腰を落ち着けていた。  知らないお店だった。たぶんチェーン店ではない。  弟さんとの一件で気力を使い果たしてしまっていた僕は、店内の席にたどり着くなり、へなへなと座り込んでしまった。  僕が動けないのを見て、遥奏が二名分のオーダーをしてきてくれた。 「ごめん、余計なことして」  遥奏からお釣りを受け取りながら、僕は謝る。  時間を巻き戻して、全部無かったことにしたい。 「いいのいいの! どのみち邪魔だったし!」  そう言って笑いながらブラックコーヒーをすする遥奏。  僕も、グラスにストローを差して、遥奏が注文してきてくれたオレンジジュースを一口飲む。  濃厚な果汁を体に入れると、少し気力が回復した。 「ここのドーナツめちゃくちゃおいしいからさ、早く食べてみて!」  チョコファッションを頬張りながら遥奏が言う。  僕は、グラスをトレーに置いて、遥奏が注文してきてくれたポン・デ・リングをかじってみた。 「うん、おいしい」 「でしょ! ここ、私のイチオシ!」  遥奏の言う通りだった。程よい甘さ、もちもちした感触が癖になる。  僕は普段ドーナツはほとんど食べないから他のお店との比較はできないけど、確かにおいしい。 「私さ、ドーナツ巡りが趣味なんだよね!」 「他にもいろいろ回ってるの?」 「ううん! 今のところは、こことミスター・ドーナツくらい!」 「なんだよそれ!」  思わずツッコミを入れる。  だって、「なんとか巡りが趣味」って聞くと、インスタグラムに何百というお店のレビューをしている人たちのことを思い浮かべるから。 「それ、趣味って言えるの?」 「言えるよ!」  遥奏が、思いの他真剣な声で言い返してきた。  射るような目で見られて、僕は怯む。 「私が趣味だと思ったら趣味なんだよ! これからいろいろ巡るんだし!」  そんな考え方もあるのか。  でもそれってやっぱり、ドーナツが好きで好きで、ドーナツのことなら何でも知ってますみたいな人からすると、失礼に感じるんじゃないかな。 「秀翔も一緒にいろんなとこ回ろうね!」 「あー、うん」  曖昧な返事を返す。「約束だよ!」と言って遥奏はニコッと笑った。
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