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祐介の誘い
それから3カ月が過ぎていった。
平は車椅子に乗りながら外の風に当たっていた。
「今頃祐介は何しているかな?」
すると後ろから声がした。
「平」
平が振り返ると誰かがいた。
パーカーのフードを被ってサングラスをして肌の調子がかなり悪そうだ。
「祐介か?」
祐介はサングラスを一瞬下にずらした。
「平、元気?」
「お前こんなところで何やってるんだよ?大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。なんとかやってるよ」
「なんでここに来たんだ?」
「なんかさ言ってたじゃん。平。ゾンビになりたいって」
「ああ言ったよ」
「あれが忘れられなくてさ。俺、今本当に変わったよ。体が元気になって世界が本当に変わった。この体ならどこにだって行ける。だからもし平が言ったあの言葉が本当かどうか確かめに来た」
「本当に体治ったのか?」
「本当に治った。全力で走れるよ」
「走れる?…走れる…いいなそれ」
平は目を大きく開いた。
「ゾンビになりたい?」
「ゾンビにしてくれ!俺また走りたい!」
「本当にいいんだね?」
平は頷いた。
祐介は平に近づき首元を噛んだ。
「けっこう痛いんだな」
「ごめん」
平の体はどんどんと色が黒ずんでいき、あっという間にゾンビになった。
「本当にゾンビになった」
平は体全体をゆっくり眺めた。その後ゆっくりと車椅子から立ち上がった。
「あはっ!立てた!やったー!俺、自分の脚で立ててるよ!」
「やったじゃん」
「どうゾンビになって?」
「最高だよ!俺また人生やり直せる」
「そうだよ。俺たちまた人生やり直せるよ」
二人は笑った。
「そんなことより早く逃げないと捕まっちゃうよ」
「そうだな。ってか、今までどこにいたんだよ?」
「今いる所に案内するよ。その前に帽子とサングラスして。見つかったらおしまいだからさ」
「これを持ってきたということは、俺がゾンビになるって思ってたから?」
「絶対になると思ってたよ」
平はキャップの帽子を被りサングラスを掛けた。
「どう?これ?大丈夫?」
「イケてるじゃん」
「でもどうやって行くんだ?帽子にサングラスでも二人だと目立つだろ?」
「まあね。ちょっと付いてきて」
平は祐介の後に付いていった。
「あー本当に歩けるってすごいな!」
「これだよ」
祐介は車の前で止まった。
「え?車?どうやって車なんて用意したんだよ?まさか盗んだ?」
「違うよ。これは俺の」
「祐介の!?どうやって手に入れたの?」
「早く乗って。着いたらわかるよ」
二人は車に乗って走り出した。
「おーなんか感動する。これから俺の人生変わるんだな」
「本当に平が来てくれて良かったよ」
「いや礼をいうのはこっちの方だよ。人生に絶望してたんだから。今はこうなんていうか高揚感がある」
嬉しそうな平を見て祐介は笑みを浮かべた。
「それにしても気付かれないな」
「まさかゾンビが車運転してるなんて思わないでしょ」
「たしかに」
二人は笑った。
平は本当に心から笑った。こんなことは本当に久しぶりだった。
「着いたよ」
辺りはすっかり夜になっていた。
「着いたってここ普通にビルじゃん」
「大丈夫だよ」
二人は車を降りた。
祐介は雑居ビルの入り口に立った。
「このビルだよ」
「えっどういうこと?」
「付いてきて」
祐介は入り口を開けて入っていった。平もその後に続いて入っていった。
エレベーターに乗り、祐介はB3のボタンを押した。
「えっ地下か」
「うん。まあ見ててよ」
ドアが開いた。少し長い廊下があり、奥には部屋があった。
祐介はドアの前で手を機械にかざした。
指紋を認証してドアが開いた。ゾンビにも指紋がある。
ドアが開くと一気に賑やかになった。
そこはバーだった。ゾンビがたくさんいた。お酒を飲んだりタバコを吸ったりゾンビが陽気に酔っぱらって楽しそうにしていた。
「なんだよここ?ゾンビがたくさん…」
祐介は上着のポケットからタバコを出して火を点けた。
「いいでしょここ」
「祐介お前タバコ吸ってるのか?」
「今の体はなんでもできるよ。平も吸う?」
「いや俺はいいよ」
「こっち来て」
祐介はカウンターの所に行った。
「ビール2つ下さい」
「おおっ、見ない顔だな」
カウンターのゾンビが平を見て言った。
「友達の平です」
「そうか友達なら今日は俺のおごりだ」
「すみません三宅さん。じゃあ乾杯しよう」
「俺まだ18だけど…」
「いいじゃん。自由になった今日に乾杯しよう」
「そうだな。自由に乾杯するか」
「じゃあカンパーイ」
祐介はゴクゴクビールを飲んだ。平は一口だけ飲んだ。
「祐介けっこう飲むな」
「健康になってからすごい楽しいよ」
そんな姿を見て平は笑った。
「まさかこんな祐介の姿が見れるなんて思わなかった」
「ゾンビになって健康でいるって本当にすごいことなんだなって感動した」
祐介はビールをゴクゴク飲んであっという間に飲み干した。
「三宅さん、おかわり下さい」
「おー、いい飲みっぷりだ」
「今日は本当にいい日なんです」
「ほい、ビール」
祐介はお金を払った。
「えっお金持ってんの?」
「うん。最近はけっこう稼いでるんだ」
「稼ぐってどうやって?」
そこにマスターの三宅が割って入った。
「祐介は強いからな」
「強い?祐介が?」
「強いぞ。センスがあるからな」
「自分でも驚いてるんです。自分が闘えるのに」
「何の話ししてんだ?」
平は昔から病弱な祐介を知っているから全然想像がつかなかった。
「じゃあビール持ってこっち付いてきて」
二人は奥にある部屋へ向かった。
「準備はいい?」
「ああ。何がなんだがもうわかんないけど」
祐介が扉を開けた。扉を開けると歓声が広がっていた。
中央にはゾンビ二体が向かい合っていた。
「始まるよ」
「始まるって何が?」
「いいから見てて」
ゴングがなりゾンビ同士が殴り始めた。
「いけー!いけー!」
「お前に賭けてんだぞ!」
そう、ここではお金を賭けて闘いが繰り広げられている。
「もしかして祐介、これやってるの?」
「俺強いみたい」
祐介は強気な笑みを浮かべた。
「マジかよ。祐介が闘いって」
「次俺だからさ、見ててよ」
「え、次!?」
「今日勝てば10連勝」
またまた、祐介は強気な笑みを浮かべた。
「そんなに勝ってんの?信じられねー」
闘っていたゾンビの試合が終わった。
見渡してみるとあることに平は気づいた。それは周りには普通の人間もいることだった。
「祐介、人間もいるけどどうなってんの?」
「試合に勝ったら説明するよ。ちょっとビール持ってて」
「もう勝つ前提なんだ」
祐介はリング中央に向かった。
対戦相手はもう既にリングに立っていた。
祐介よりもでかく、筋肉ムキムキだ。
祐介もリングに立った。上半身は裸だ。
「祐介のあんな姿初めてだ。ずっと病弱で細くて弱そうだったのに」
祐介の対戦相手は祐介になにやら挑発をしていた。
「お前なんて一瞬だ。3秒で倒してやる」
祐介は何も答えず涼しい顔をしていた。
ゴングがなった。祐介は勢いよく突っ込みながらジャンプして右手で相手の顔面をとらえた。相手はマットに沈んだ。
「すげー」
起き上がることなく祐介は勝利した。場内にいる観客は祐介に歓声を上げた。
祐介は平の方に来て、ビールを取り飲み干した。
「祐介やるじゃん。あっという間だった」
祐介はタバコに火を点け、一息ついて答えた。
「平も出てみる?」
「いや俺はこういうのはやりたくないし」
「まぁこれみたら変わるかも。付いてきて」
祐介の後を付いていくと受付みたいなところにゾンビが座っていた。
「祐介、今日も勝ったな。ちょっと待ってな」
「これで10連勝。まだまだいくよ」
受付のゾンビはお金を出した。
「今回は50万だ。次も期待してるぞ」
「平これどう?」
「お金?こんなに!」
「闘いに勝ったらお金貰えるんだよ。」
「どう?少しはやる気出た?」
「俺なんか出ても勝てないし。それに俺はただ走りたいだけだし」
「そんなこと言ってこれからどうやって生活するの?」
「生活って言われても。まだそんなことは…」
二人はさっきいたバーに戻って飲みなおした。
「祐介、またやったな」
マスターの三宅がビールを注いで祐介に出した。
「本当に強かったな。ってか、体でかくなってない?」
「元々病弱だったから、その反動かな。なんてね」
「あんなに体弱かったのに今じゃリングに立って闘ってるんだもんな」
「人生何があるかわかんないね。」
「そういえば人間もいたけど大丈夫なのか?」
「こういう遊びが好きなお金持ちの連中が来るんだよ」
「怖くないのかね。ゾンビに囲まれて。…ところで今どこに住んでるの?」
「ここのビルに住んでる。」
「ここ!?」
「うん。ここにいるゾンビみんなそうだよ」
「そうなんだ。でもなんでこんな闘いなんてやってるんだ」
「これを経営してるのが実は人間なんだよ。」
「なんだよそれ」
「こういうことが金になると思ったんじゃない?」
「ゾンビ同士の闘いが?」
「ゾンビ同士だけじゃないよ。人間とゾンビだってあるし」
「そうなの?…でもそれ見たい人いるかもな。ってか、人間ってゾンビに勝てるの?」
「勝てる人もいるよ。映画みたいに全員のゾンビが強いわけじゃないからね。だから平も勝てるチャンスがある」
「ケンカしたことないのにいきなり初めての闘いがリングに立つって難易度高いな」
「でもお金ないと餓死するよ。映画のゾンビはなんか不死身みたいな感じするけど」
「餓死って冗談だろ?笑っちゃうよ。ゾンビが餓死って」
「いやこれマジだから」
祐介の顔は笑ってなかった。
「そうなんだ。じゃあ俺どうしよう?」
「まぁとりあえず俺の部屋に泊まっていいよ」
「あー助かるよそれ。いきなり路上生活はハードル高いわ」
二人はビールを飲み終え祐介の部屋に向かった。
ゾンビは地下のB1とB2に住んでいる。
「ここが今住んでるとこ」
「へー、ちゃんとしてるじゃん」
「地下だから外の様子は見えないけど、2DKだからけっこう広いし。お金あればもっといい部屋に住めるよ。こっちの使ってない部屋使って。」
祐介は部屋を開けた。
「えーここ?いいじゃんいいじゃん。こうこう所で3ヵ月も生活していたのか」
祐介は病院で逃げたあとにここの経営者に偶然声を掛けられた。
行く当てもなかったため、その経営者の車に乗りここまで来た。
「たしかにここを経営してるボスには感謝してる。でもそれはたまたま俺に戦いのセンスがあっただけで…」
ここで暮らしていく為には家賃を払わなければいけないルールが存在した。
そして、家賃を払えなくなった者は、ある時急に姿を消していた。
「つまり弱肉強食ってこと?えっ、ってことは俺どっかいなくなるの確定じゃん」
「まだ早いって。最初だから3カ月は家賃払わなくていいし。食べ物だってあるし」
「でもたった3カ月…その後は俺どうすれば…」
平はうつむき、放心状態になった。
「とりあえず俺がいるから大丈夫だよ。俺お金いっぱいあるし」
「そうか」
平は苦笑いした。
祐介はそろそろ寝ようと床についた。
「祐介、外には出ていいの?」
「出ても大丈夫だけど、捕まらないように気をつけないと」
「出ても大丈夫ならよかった。大丈夫。夜中に出るようにするから」
平は早速外に出て行くことにした。
「もう行くの?」
「どうしてもやりたいことがあるんだ」
平は高揚感でウキウキしていた。服装は暗めで帽子を被りマスクもした。
「どうこれ?」
「めちゃめちゃ怪しいけど」
「だろ?俺もそう思った。でも見つかっても逃げ切れる自信あるし」
そう言って平は外に出た。
平は走った。体中がうずうずしていた。この一歩一歩を嚙みしめながら走った。
「これだよ!!これこれ!」
感動で涙が出た。少し走りあることに気付いた。それは…疲れだった。
「あれ?えっ?疲れる。脇腹痛い」
映画のゾンビはフルマラソンを全力で走れそうな勢いで相手を追いかけまわし捕まえ食べる。映画で疲れているゾンビを見たことはあるだろうか。そんなゾンビがいたらコメディ映画になってしまう。だが実際のゾンビは普通の人間と同じで疲れるのだった。
平はゼーゼーと息を切らした。
「マジ疲れた」
平はビルに戻った。
「祐介祐介。起きてくれって」
祐介は平の声で起こされた。
「うん?」
「ゾンビ疲れる。こんなゾンビありかよ?」
「あー俺も初めは笑っちゃったけど」
「こんなゾンビ、映画で出てきたら冷めるよな」
「たしかに、ゾンビ疲れてゼーゼー言ってて、ちょっと待ってとかないよね」
二人は笑った。
その後、二人は床についたが平はなかなか寝れなかった。
平は笑みを浮かべた。
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