平のデビュー戦

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平のデビュー戦

 試合当日、平は震えていた。 手は汗ですごく湿っていた。 「俺が見てるから。なにかあったら俺がすぐに止める」 「ああ。それはマジで頼んだ」 平はリングに立った。周りには多くの観客がいた。 対戦相手も出てきた。相手はゾンビで身長は平均位で平と同じ位だった。 見た目もそれほど強そうには見えなかった。 ゴングがなり試合が始まった。 平は腰が引けていて明らかに弱そうだった。 相手のゾンビが先に仕掛けた。右パンチ、左パンチと交互に出した。 平はそれをまともに食らった。 鼻血も出た。ゾンビの鼻血はどす黒く見た目通りの血の色だった。 その後も防戦一方で平は倒れてしまった。 「平立て平―!」 祐介が叫んだ。 平はなんとか起き上がった。 「平一発だけでいい。一発だけやり返せ」 その声は平の耳に届いた。 平は腰が引けた右パンチを出して相手の顔に当てた。 だが、その後は相手のパンチの応戦に再び倒れてしまった。 そして試合は終了した。 平の顔は腫れあがりゾンビの顔はさらに酷くなった。 祐介がリングに上がり平を起こしそのまま部屋まで行った。 「俺酷かっただろ?」 「センスはなさそう。あの腰の引きから言って」 「センスないか…」 「でも一発やり返せただけでもよかった。あれがあるとないのでは全然違う」 「…初めて殴ったよ。初めて殴った相手がゾンビになるとは」 「あのまま何もやり返せないまま負けてたら次はないかも」 「そうか…」 平は疲れてそのまま寝てしまった。 次の日平は目を覚ました。 起きたらもう昼過ぎだった。 「起きた?」 「痛てて」 「いいよ。無理に起きなくて」 昨日よりも顔が腫れていた。 平はその後もまた寝て、夜になって起きた。 「祐介、俺やっぱりもうダメかも」 「えっ?ダメ?」 「ああ。俺この世界では生きれない」 「一回負けて次闘えない奴は正直いる」 「…そうか。そういう奴はきっともうどっか行っちゃうんだろう?」 祐介は重たい口を開いた。 「…ああ」 「どうしよっかな。この先。足が治って希望が持てたのにすぐこれだよ」 「大丈夫。俺がいるから。俺が勝ち続けたらそれで大丈夫だ」 平は何も言えずまた眠りについた。 次の日平は起き上がった。 「痛てて。殴られるのってこんなに痛いんだな」 「無理しない方がいい」 「昨日ずっと寝てたからもう腰が痛くてさ」 祐介は肩を貸し平を座らせた。 「しばらくは休んだ方がいいよ」 「また世話になっちゃうな」 「気にするなよ。俺は一人でずっといたから正直寂しかった。だから本当に気にしないで」 平は少し笑った。 それから1週間が過ぎた。 平の傷は良くなり走れるまでになった。 「なんかゾンビだからかな。治るの早くない?」 「俺はあんまり殴られたことないからよくわかんないけど」 「あっなにそれ。自慢?」 「センスあるからなー俺」 得意げにタバコを吹かせた。 「そういえばいい知らせがある」 「なになに?」 「別のビルの地下で闘いじゃない別のことで勝負するのがあるって」 「えっえっどうやって?」 「走る」 「えっ!マジ?それって俺のことじゃん!!」 平の眼は見開いた。 「よかったじゃん。これで闘わなくて済む」 「それどこ情報?」 「バーの三宅さん」 二人はバーに行った。 「三宅さんさっき祐介から聞きました。別のビルで走る試合があるって。本当ですか?」 「ああ、これは間違いない。もう施設は前から既に完成していて、そこで試合も既に行われている。」 「もうやってるんですか!?どうやったら行けるんですか?」 「それが…もう知ってるかもしれないが、ここで負け続けて家賃が払えずいつの間にかいなくなる奴がいるだろう。実はそいつらがその施設に送られているって話しだ」 「ここで負け続ける…それって俺のこと?俺もこのまま負け続ければそっちに行けるってこと?」 「そういう話しになるが、まだこの話しには続きがある。」 三宅は強面だが、さらに眉毛をひそめて話しを続けた。 「その施設でも試合に負け続けたらどうなるか」 「どうなるか…」 平は不安な表情で聞き返した。 「もう終わり。人生終わり。人生というかゾンビ生は終わり。人体実験、いやゾンビ体実験に回されてもう生きては帰れないって話しだ」 平の表情は不安から明るい表情になった。 「なんだ。そんなことか」 「そんなことって人体実験いや、ゾンビ体実験だぞ」 三宅は危機迫る表情で言い返した。 「だって俺足には自信あるし。なんたって高校で全国大会行ったからね」 平はここに来て一番自信のある表情で答えた。 「全国大会か…やるな。まぁ前の試合見たけどこの先お先真っ暗な闘いぶりだったからな。こっちよりは断然望みあるな」 「やっぱり俺闘いだめだよね。でもその話し聞いたら早くそっち行きたい。俺ここのボスに相談してみようかな」 「まだお前みたいな新人の話しなんて聞かないと思うけどな」 祐介が得意げに話しに入ってきた。 「そこは俺にまかせてよ。今の俺の実力があれば聞いてくれると思う」 「祐介―!頼りになるな!」 平と祐介はボスの所に会いに行った。祐介が話しがあると言ってくれたおかげで、ボスは会うことにした。 「祐介よくやってるな。君の試合は人気があって私は嬉しいよ。ところで横にいる君は誰だ?」 ボスは葉巻を吹かしスキンヘッドの成り立ちでお金持ってますって感じだった。 「実はこっちの新人の件で、お話しがあって来ました。まだ試合は1試合しかやっていないんですけど、その実力がなくて…」 「実力がない?正直そこのゾンビの事は覚えてないな。私の記憶に残らないということは実力がないってことだろう」 ボスは外見通りの率直な意見を言った。 「そこでお話しがありまして…実は別の施設があると聞きました。走りで試合をするとかで…」 「ほう。もうそんなことまで知っているのか。まぁ誰に聞いたかは知らないが、今回は君の実力に免じて誰から聞いたかは聞かないでおこう」 「その…このゾンビ俺の友達なんですけど、闘いには実力がないので、そっちに行かせてもらえないでしょうか?」 「ほう。じゃあ走りには自信があるということかな?」 そこで平が話しに割って入った。 「俺は高校で全国大会に行きました。闘いにはセンスがないんですけど、走りのセンスはあります。どうかそちらに行かせてもらえませんか?」 「全国大会か?なるほどそれは面白い。今実はその施設で行われているゾンビの実力が低くて困っていてね。君みたいなゾンビを探していたところなんだよ」 「じゃあ俺はそっちに行けるんですか?」 「いいだろう。ただしその試合にも負けたらどうなるかも知っているんだろうね?」 ボスは平に詰め寄って質問した。 「もちろんです。その覚悟はあります」 ボスは葉巻を吹かし答えた。 「いいだろう。君にチャンスをやろう。これも君の友達のおかげだけどね。私は祐介の実力に惚れているんだよ。君はいい友達を持った」 平と祐介は再びバーに戻り三宅に報告した。 「おー良かったじゃん。これも祐介のおかげだな」 「それ!それ!ボスにも同じこと言われました」 「いや、実際そうでしょ」 祐介が得意気な顔で答えた。 「いやー祐介には本当に感謝してるよ。ゾンビにしてくれたこともそうだし、ここに誘ってくれたこともそうだし」 「まぁでもまだこれからだよ。とりあえず乾杯しよう」 「今日は俺のおごりだ」 三宅はビールを3杯注いだ。 「平の成功を祈って乾杯」 「かんぱーい」 「苦っ」 「あっ、平はコーヒーの方がよかったか」 次の日、施設に新人のゾンビが来た。 身長は2m、体重は130キロとかなり鍛えぬかれた体だった。 「とんでもない奴が来たぞ。そうだな祐介と闘わしたい。そうだ明日だ。明日このゾンビの試合をやるぞ」 ボスが興奮していた。かつてこんな体格に恵まれたゾンビはいなかったからだ。 そして、早速その試合が組まれた。 「祐介、大丈夫かよ。あんな巨体。勝てるのかよ?」 「ただのでかいだけかも。明日出発だよね。丁度いいじゃん。派手に勝って送り出してあげるよ」 「でもでかいだけじゃなくて筋肉もすごかったぞ」 「明日になればわかるよ。俺センスあるからなんとかなるよ」 祐介は不安の表情を一つも見せずに答えた。
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