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それぞれが選んだ道
「三宅さん、祐介本当にどこ行っちゃったんですかね?」
三宅は拭いていたグラスを置き一息入れて答えた。
「恐らくだが、もうここには戻って来ないだろう」
「なんで!?ここは祐介の輝ける場所ですよ?」
「まぁ最近のあいつを見ててなんかおかしいとは思っていたんだがな」
「おかしいって何がですか?」
「祐介は元の人間に戻りたいと思ったんじゃないか?」
「嘘だ!…だって祐介は自らゾンビにお願いして噛まれたんですよ!」
「まぁゾンビになってしばらくここで暮らして変わったんじゃないか」
「そんな嘘だよ。祐介がそんなこと考えるなんて」
その日の夜、平は外に出た。
車を走らせある所に向かった。
恐る恐る平は窓の先にいる何かを見ていた。
窓の向こうには祐介がいた。人間の祐介がいた。
食卓には祐介の両親が座って一緒に話をしていた。
祐介は病弱で痩せていて弱弱しいあの頃に戻っていた。
でも祐介は笑っていた。
それを平はしばらく静かに見ていた。
祐介の家の近くでしばらく座っていた。
「平!」
「祐介!なんで祐介?なんでここに!?人間に!?」
「びっくりした?」
祐介は少し笑った。
「なんでだよ祐介?またあの時の体に戻ってまで…なんで?…」
「最初は俺もゾンビの姿に満足していた。あんな強い体になって負けなしで、これが生まれ変わった俺だって思ったよ。でも…」
祐介は少し息をついた。
「孤独だった。強くなっても孤独だった。」
「孤独?全然そんな風には見えなかった」
「思ったんだよ。体は生まれ変わってもこのまま一生家族に会えなくていいのかなって。家族が困っている時に一緒にいなくていいのかなって。家族が死んでもその場にいなくていいのかなって…そう思ったんだ」
祐介は息を切らした。
「そんな体になってでもそれを望んだのか…」
「そうだよ。だから平もっ」
「いや俺はいいよ」
平は祐介の言葉を最後まで聞こうとしなかった。
「平はどうするの?これから」
「俺の人生はあそこにある。」
平は真っすぐ祐介の眼を見た。
「もし…もし…またゾンビになりたいと思ったらまた来てくれよ。今度は俺が噛むからさ」
「ああ」
二人は笑った。
それから3年が経過した。
「出たー新記録が出たー!タイムは8秒98。これはすごい記録が出たー!」
平は100mで次々と新記録を更新していった。
今日も平は走っている。
完
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