ある日突然

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ある日突然

 突然だった。一瞬で人生は変わってしまった。 交通事故で下半身が麻痺した。 高校3年生最後の夏の大会の直前の出来事だった。 中学、高校と陸上部に所属していて、実力もあり全国大会まで行った。 でも人生は突如として不幸なものになってしまった。 「嘘だろ?嘘だ嘘だ嘘だ!」 平は病室のベッドで現実と向き合えずにいた。 「全然感覚ないじゃん!なんだよこれ!」 でも、平はきっと治ると信じていた。 ベッドから立とうとした。足には全く力が入らず倒れてしまった。 「嘘だろ」 看護師が来て平を起こそうとした。 「大丈夫ですか?」 看護師は平を起こしてベッドに寝かせた。 「無理したらダメですよ。」 そう言って看護師は後にした。 平は泣いた。涙がボロボロと湧き出た。 次の日平はまた起き上がろうとした。平はまだまだ諦めていなかった。 ベッドから起きては倒れ起きては倒れての繰り返しだった。 そんなことが3ヵ月ほど繰り返され、平は段々と自分の症状が良くならないことを悟った。 車椅子で移動していた時の事だった。 「平?」 後ろから声を掛けられ振り向くと友達の祐介がいた。 「平どうしたの?」 「祐介か」 祐介は子供から体が弱く入退院を繰り返していた。二人は幼稚園からの幼馴染だった。 「俺さ交通事故になって下半身麻痺になったんだ」 祐介は何て言っていいかわからずにいた。 「そんな顔すんなよ」 少し沈黙が流れ、平は祐介を見た。 「祐介は体調どうなんだよ?」 祐介は少し息を深く吐いて答えた。 「相変わらずだよ。この軟弱な体は」 そう言って祐介は笑った。 平も笑った。 二人はその後も昔のように話しをした。 そこに突然、テレビでゾンビが逃亡したニュースが入った。 映画みたいな話しが現実となったがこの世界は、ごく一部で人間がゾンビ化してしまう現象が発生していた。 なぜゾンビになるかの原因はわかっていない。 だが、映画みたいに人を襲うことはない。人間の時みたいに意識もしっかりしている。だが、ゾンビに噛まれた場合はゾンビになってしまうので、国が管理している隔離施設で生活しなければならない。 「平、知ってる?ゾンビになったら病気とかいろんなものが治っちゃうんだってさ」 「なんだよそれ?」 「本当かどうかは知らないけどそんなことテレビでやってたからさ。こんな体だからゾンビになりたい」 「もしそれが本当なら俺もゾンビになりたい。そしたらまた走りたい」 「平もか。一緒にゾンビになりたいな」 警報器が病院に響き渡った。同時にアナウンスが流れた。 「病院にゾンビが現れました!病室のドアを閉めて下さい!」 平と祐介は病室にはいなくロビーにいた。 ゾンビが平と祐介に近づいて来た。 「祐介、逃げるぞ!」 しかしゾンビは二人を通り過ぎて行った。 「あれ、ゾンビ行っちゃったよ。本当に人は襲わないみたいだな」 「平これはチャンスだよ!」 そういうと祐介はゾンビを追いかけて行った。 「おい!祐介どこ行くんだよ」 ゾンビは何かを探している様子だった。 そして祐介は体が弱いながらも必死でゾンビの後を追った。 「やっぱりこの体だと辛いな」 なんとか頑張ってようやくゾンビにたどり着いた。 「あのゾンビ…さん」 ゾンビはキョロキョロと辺りを見渡していた。 「ゾンビさん!」 祐介が大きな声を出すとゾンビが祐介を見た。 祐介は一瞬驚いたが勇気を出して言った。 「ゾンビさんお願いです。僕を噛んで下さい!」 ゾンビは祐介を見て答えた。 「俺はお前なんかに興味はない。」 「お願いします」 ゾンビは祐介から目をそらし再び何かを探しているようだった。 「ゾンビさん本当にお願いします。」 ゾンビは祐介を見ずに答えた。 「お前に構ってる暇はないんだ」 「じゃあゾンビさんは何をしているんですか?」 ゾンビは祐介のことを無視して叫んだ。 「真紀!真紀どこだ?」 ゾンビは人を探していた。 すると後ろから声がした。 「洋?」 「真紀…真紀」 ゾンビは真紀に近づいた。 「俺どうしても真紀に会いたくて施設から逃げて来た」 「洋…」 「俺こんな風になっちゃったけど真紀のこと忘れられないよ」 「…ごめんなさい。私ずっと待ってたんだけど…今は好きな人がいるの。ごめんなさい。洋」 真紀はその場を去っていった。 「真紀…」 ゾンビは立ち尽くしていた。 「僕病気なんです!」 祐介はゾンビの気持ちを考えたがこれを逃すともうチャンスがないと思った。 「お願いです。僕は小さい時からずっと病弱でずっと入退院の繰り返しなんです。そんな人生嫌なんです。ゾンビでもいいんです!元気になってもっと自分の人生を生きてみたいんです!」 ゾンビは意気消沈していたが、祐介の言葉を受けて祐介を見た。 「自分からゾンビになりたいなんてお前は変わっているな。こんな姿だから真紀はいなくなってしまった」 「僕はゾンビになりたいんです!ゾンビさん僕に健康な体を与えて下さい。あなたにしかできないんです。」 「俺はもう施設に戻る。お前の人生なんか知らんが本当にそれを望んでいるならゾンビにしてやるよ」 「お願いします」 祐介はゾンビに近づいた。 ゾンビは祐介の首元を噛んだ。そこに平がやってきた。 「どうなってるんだよこれ」 祐介はどんどん姿を変えゾンビになってしまった。 祐介は自分の体をゆっくりと確認した。 「ありがとうゾンビさん」 「ありがとうかよ。本当にお前は変わっているな」 そう言ってゾンビは病院を出て行った。 「祐介!?お前どうなってるんだよ?」 「平やったよ!ゾンビになったよ」 「さっきのゾンビに噛まれたのか?」 「うん。というよりもお願いして噛んでもらった」 「マジかよ!」 平はマジマジとゾンビ化した祐介を見た。 「今どんな感じだよ?」 「初めてだよこんな感じ」 「こんな感じってどんな感じ?」 「すげーなんか体の奥からすごい元気がみなぎってくる!」 「本当に病気治ったのか?」 「多分…いや完璧に治ったんだよ。きっと!」 警察のパトカーのサイレンが近づいてくるのがわかった。 「祐介警察来たぞ」 「逃げないと…捕まったら施設に行く。逃げるよ俺」 「ああ早く逃げろ」 祐介は急いで逃げて行った。
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