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散る花
「おばあちゃん」
大きなお墓の前で浮きながら祈っていたモユリ、あれから心麦おばあさんは3日後に亡くなった。
病気を抱えていた心麦おばあさんは朝、目を覚ましたモユリがテーブルで寝ているところを起こそうとするが返事はなく息をしていない事に気がつく。脈もなく手も冷たい、悟ったモユリは涙を流してそれでもと救急車を呼ぼうとこらえながら連絡。
隊員たちは誰が掛けたのかと思う中、心麦おばあさんを発見し病院へ連れて行くもどうしようもなく、その目が開く事はなかった。だけどそこで看護師たちはつい口を開くほど、このおばあさんは幸せそうだったと話していた。
「――おばあちゃん友達はできましたか?」
モユリが見上げるのは青空ではなく無縁墓という弔う人がいないまま亡くなった人のためのお墓であり、やはり心麦おばあさんに血縁などはいなかった。
「心麦おばあちゃんにあって笑顔になってほしくてガムシャラに漫才覚えましけど、それを今度は友達の妖精にも見せようとおもてます。ちょっと恥ずかしいけどやってみたら結構ハマってしまいましたわ〜」
話しながら見上げていた顔が徐々に下を向いていく。
「正直、まだおばあちゃんが亡くなったって思いたくない、声をかけてくれるような気しはって······」
でも胸の中で、
あんたは笑顔がええ。
そう言われた気がした。
「そうやな、あかん、ウチらしくない」と再び顔を力強く上げる。
「ウチ、また妖精として新しい困ってる人にこの笑顔を届けます。だからおばあちゃん見といて、ウチの漫才」
モユリは無縁墓の前で漫才を始める。
「ブ〜ン、今日は家族でキャンプやで〜」
「わ〜い」
「着いたらまず何したい?」
「カレー」
「食欲旺盛やな〜」
「クマに会いたい」
「なに言うとんねん、あぶないわ! ええか、クマに会ったらまず」
「逃げる」
「う〜ん、ただしくはそっと逃げるやな」
「握手する」
「そ〜やな〜クマとも友好的に······って、アホか、死ぬわっ」
「うわ〜ん、お母さんが怒ったー」
「あ、お母さん泣かした」
「ごめんごめんな〜、そうやな〜クマさんも分かってくれるかもしれへんな〜」
「おしっこ」
「トイレかいっ、この子をトイレ連れてくからあんたは待っといて」
「――あーただいま〜」
「か、母さん」
「今度はあんたかい、どうした?」
「腹減った」
「お腹すいたんかい、もう少しで着くから待ってな」
「わかったよ」
「あっ!」
「お母さんなに?」
「キャンプ、明日やったわ······」
「なんやそれっ!」
漫才を終え頬が赤いりんごになってもペコリと頭を下げた。
これできっと心麦おばあちゃんは笑ってくれる。
「おばあちゃんホンマお疲れさまでした、今はゆっくりしはって、おやすみなさい······」
モユリは最後に手を合わせあの世で心麦おばあさんの笑顔を祈り無縁墓を後にした······。
2000年代から徐々に増えてきた独居老人。
原因はインターネットの普及、社会構造の変化、医療の進化による長寿など理由は様々。
妖精の世界でも昔と比べお年寄りに付く妖精が増えている、そのため無縁墓にはいろいろな妖精が時折いのりに来ているとか。
人は独りでは淋しいもの、周りの存在あっての自分自身であり周り無き自身は生きているのか死んでいるのかもわからない。
だからこそ証として昔から人は力を合わせ生きてきたのではないだろうか。
一言でもいい、たとえそれが恥ずかしくても一歩を踏み出して話しかけてあげてほしい。そうすればきっと笑顔になれるから。
妖精モユリはそう願いながらいつもの様に困っているあなたにもきっと笑顔で手を差し伸べるだろう。
「よろしくおねがいします〜、モユリです〜······」
妖精、それは悩んだり頑張ってる人達に手を差し伸べる、そんな生き物。
次に彼女が見えるのは、あなたかも知れない······。
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