ふさぐ

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 私はいつも藍里ちゃんの一歩前を歩く必要があった。私は生まれた瞬間から“藍里ちゃんを守る”という使命を与えられていたからだ。母も父も、そういう明確な目的意識をもって、藍里ちゃんに遅れること二年、私をこの世に産み落とした。 「藍里ちゃんはなんにも聞こえないから。でも朱里はなんだって聞えるでしょう? だからね、朱里には藍里ちゃんへ片耳を貸してあげてほしいの」  私が何か藍里ちゃんへの不満をこぼすたび、必ず母はそうやって私を諭した。幼少期こそ「藍里ちゃんが聞こえないのは私のせいじゃない、どうして私が」と強く反発したが、小学校も四年目になったころにはほとほと諦め果て、私は従順に“藍里ちゃんの片耳”として機能するよう自ら努めるようになっていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!