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アヤと商店街に入った刹那、一回目にあったような頭痛がした。
立ってはいられず、膝をつく。
記憶が断片的に流れていく。
アヤと初めて出会った時の会話のパターンを追いながら、リカは冷静に考えた。
……これはなんだ?
世界は毎回リセットされているんじゃないのか?
なぜ、アヤと出会った色々なパターンが頭に浮かんでくる?
頭に流れてくるのは、アヤと出会った時だけ。
そう、アヤに会った時だけ。
「……そうか……」
リカは目を閉じ、ゆっくり開いた。
……綻びだ。
ほころび。
アヤと出会う方面だけ、前の記憶を消去できていないんだ。
「わかったぞ……」
この「システムエラー」が正しい道だ……。
「そして私は……弐の世界の記憶を切り刻んで消していたはずのワダツミのメグを覚えている……」
そう、今も。
あの神はこう言った。
「壱に着いた時には、弐の世界のことを忘れているはずだ」と。
忘れていない。
「私は忘れていない!」
おかしな所を探せ……。
この世界の矛盾を探せ……。
負けてたまるか。
「ね、ねぇ……大丈夫?」
アヤが不安げに尋ねてきた。
リカは頷くと、頭から手を離し、立ち上がる。
「大丈夫……」
アヤが声をかけようとした刹那、突然に雪が降ってきた。
雪はありえないくらいの早さで吹雪になり、世界がホワイトアウトする。
「きゃああ!」
アヤの悲鳴が聞こえ、リカは雪に埋もれた。しばらくして、視界が開け、雪も降り止んだ。
急激に寒くなる。商店街では人々がしきりにニュースをつけていた。
『……原因不明の吹雪が街を襲いました……専門家は……』
動揺の声が上がり、ニュースの音量も上がる。
「まるで、季節がめちゃくちゃになったみたい……。さっきも降ったんだけど、まだ雪が降るには早いのよ」
アヤは吹雪に飛ばされて足を擦りむいたようだ。ハンカチで傷を抑えていた。
「アヤさん、大丈夫? 痛そう……手を貸すよ」
「あ、ありがとう」
アヤは顔をしかめながら、血を拭い、リカと共に歩き出した。
……もうわかってるけど……
リカはぼんやり思いながら、シャッターが閉まっている店の方を向いた。店の前にサムライ姿の男と赤髪のチャラチャラしたにぃちゃんがいた。
「栄次、プラズマっ!」
アヤがふたりを呼ぶ。
ふたりはアヤを見て顔をしかめた後、ため息をつきつつ、近づいてきた。
「ここは現代か……」
栄次の声を聞き、
「マジかよ……、どうりで古くさいと思ったよ、あんたもいるし」
プラズマの抜けた声を聞く。
その後、ふたりは自己紹介し、アヤが怪我をしていることに気付き、心配する……。
「擦りむいたか? 水で洗い、消毒を……」
「うわっ、いってぇ……、絆創膏貼ろうぜ!」
ふたりはリカをちらりと見てから、アヤを抱えて歩き出した。
「ちょ、ちょっと! なにするのよ! 心配してくれてありがたいけれど、擦りむいただけよ」
アヤは焦った声をあげるが、男ふたりに抱えられ、身動きができず、恥ずかしさから頬を赤く染めた。
「……おみこしみたいになってるんだけど……」
リカは初めての展開に不安げな顔でつぶやいた。
「水道がある公園に行くんだよ。傷を洗い流さないと、バイ菌入るぜ」
「薬草を摘みに行く……。あとは……薬研(やげん)と……」
「栄次……薬局に傷薬と絆創膏あるから……」
でこぼこな会話をするふたりを眺めつつ、リカは再び公園に戻ることを不安に思っていた。
今回はサキに会う方面ではない。サキの「さ」の字もでないし、リカの会話にならない。
「ああ、えー」
栄次が困ったようにリカを見てきたので、リカは慌てて名乗った。
「リカです。時神です」
「……時神……」
栄次は眉を寄せた後、再び口を開いた。
「リカ、すまぬが共に来てくれないか?」
「はい。アヤさんの怪我をとりあえず、治療しましょう」
リカが無理やり微笑んだので、栄次は眉をまた寄せたが、何も言わずに歩き出した。
リカは目を伏せ、震える手を握りしめ、自嘲気味に笑った。
……私は何度も痛い思いをした……。苦しい思いもした……。
そして、何度も死んだ。
でも、誰も覚えていてくれない。
辛かったねって言ってくれない。
いつまでやるんだ、私。
公園に行ったらさ、死ぬのかな、私。
誰か助けてよ……私を。
ねぇ……。
栄次が振り向いた。
プラズマも振り向いた。
アヤは目を見開いた。
リカは知らずの内に泣いていた。
「……誰か……私を思い出してよ……」
優しい時神さん達……。
アヤの血が地面に落ちる。
血が落ちた瞬間に、美しく光る大きな五芒星の陣ができた。
……ワールドシステムの鍵を開きました……。
リカの頭に機械音声のような「なにか」が聞こえ始める。
……ワダツミの矛はお持ちですか……。
「……?」
リカには何を言っているのか理解できない。
「やはりそうかぁ……まいったねぇ……」
ふと、聞き覚えのある声を聞き、リカは身体を固くした。
「ひっ……」
リカの身体から電子数字が大量に流れる。涙で濡れた瞳でよく見えないが、剣が身体を貫いてるようだ。
無造作に剣が抜かれる。
リカは仰向けに倒れた。
空から再び雪が降り始める。
「仕留めたかYO。タケミカヅチ……」
サングラスをかけた不思議な少女がリカを覗き込んでいた。
「あーあ、まだ消えてない。データが消えてない」
タケミカヅチが剣先をリカの首に振り下ろした。
「待つんだよ! なんでその子を狙うんだい!?」
聞き覚えのある女の声がする……。太陽の王冠に赤い着物、猫のような愛嬌ある目。
サキだ……。
ぼやける視界に最期に映ったのは太陽神サキだった。
いただきもの
七ツ枝葉さん
あるまさん
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