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先に動いたのは栄次だった。
無意識にアヤを守ろうと動いたのだ。
リカの腕を取り、地面に押し付ける栄次。ナイフはリカの手から飛んでいき、雪に埋もれて消えていった。
「お、おい、栄次……」
プラズマは戸惑った声をあげていた。
「アヤを狙ったな。何が目的だ。殺すつもりだったのか?」
「栄次、みろよ……」
鋭い言葉をかける栄次を、プラズマが止めた。
「うっ……うう……」
リカが苦しそうな顔で泣いているので、栄次は優しく手を離した。
「すまぬ。刃物でアヤに斬りかかった故、危険と判断したのだ」
「そりゃ、そうですよね」
リカはうずくまって涙を拭う。
「リカ……どうして私を狙ったの? 苦しそうだから、なにか理由があるんでしょう?」
アヤは恐怖を抱いたようだが、それよりもリカの様子を心配していた。情緒が不安定な神は放ってはおけない。
「ごめん。アヤ……。狂ってるんだ。私」
リカは頭を抱えて落ち込んでいた。
アヤに理由を言ったところで、ループからは抜け出せない。
そして、ここで気合いを入れて説明しても、次の時に誰も覚えていない。
「誰も……覚えてないんだ。こんなに何回も会っているのに……皆、覚えてないんだ。栄次さんもプラズマさんもアヤも……私を思い出さない」
リカがせつなげに時神達を仰ぐ。
ふと、栄次が目を伏せながらつぶやいた。
「何度も会っているのか……? ならば……過去見を使ってみようか。お前の過去を見る。俺は過去神。過去を見れる」
栄次が初めての言葉を発した。
「ウソ……」
「できるぞ……? やるか?」
栄次はリカの涙を親指で拭ってやると、そのまま頬を撫でた。
リカを覗き込む栄次の瞳の奥には時計の針が回っていた。
「……お願い……します」
リカは溢れる涙で栄次がぼやけていたが、目が合った瞬間に今までの記憶が栄次に吸い込まれて行くのを感じた。
「何度も何度も……殺されて……何度も何度もやり直したのか。俺はリカを守ってやれなかった。眼鏡の少女と……この神は誰だ……。紫の髪の男……。そうか、辛かったな」
栄次からそんな言葉が飛び出した。
「私のことが……わかったんですか……?」
「ああ……アヤを殺そうとしたわけではないのだな。すべて見えた。お前は別の世界から来たのか。信じられんが」
「栄次さん……」
リカはその場に膝をついて声を上げて泣いた。
「ど、どうした? 栄次、何を見た?」
プラズマはリカが激しく泣くので、とりあえず寄り添って背中をさすった。
アヤもリカに寄り添う。
「……この子は、高天原の東と西に、狙われている。東の頭、思兼神(オモイカネ)ワイズと西の頭、タケミカヅチ、剣王に殺される。なぜか、すべてがなくなり、同じことを繰り返している。つまり、何度も……痛みと恐怖を味わっている」
栄次は顔を歪めながら、リカの頭を撫でた。
「……繰り返している? ループか。なるほどな……。俺もこの子の未来を見てみる」
プラズマの言葉に栄次は深く頷いた。
「未来を見るか、そうだな。繰り返しているのなら、お前にもこの子のことが見えるはずだ。未来も同じなのだからな」
栄次もリカに寄り添い、プラズマに未来見をするよう促した。
「じゃあ、リカ。顔を上げて。俺の目を見て」
リカは涙を拭い、プラズマと目を合わせた。リカの、これから起こるかもしれない未来がプラズマに吸い込まれていく。
もう、すでに過去に流された事もなぜか出現した。ループしているため、過去のことでも未来になるのか。
どうせ、また起きることだから。
「……そっか」
プラズマは珍しく真面目な顔で目を伏せた。
「そうだったんだね。理解したよ。なぜか、俺達は覚えていない。いつも……覚えていないんだ」
リカは突然に理解され、どうしたらいいかわからなくなり、時神達にすがって泣いた。
なぜなのかはわからないが、時神達がリカを理解した。
ワールドシステムが開いた事で何かが狂ったのか、時神達がやったことのない事をやってきたのだ。
つまり、今回は大切に進めば、ループしなくても良くなるかもしれない。
そう、大切に進まなければならない。
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