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プラズマの未来見が終わり、アヤが恐る恐る尋ねてきた。
「私は……現代しか見れないから……わからないのだけれど」
「ああ、だよな。リカが抱えているもんはかなり……ヤバい。もう、この一言につきる」
プラズマは頭を抱えつつ、栄次を見た。
「ああ、まずいな。リカが高天原から追われている理由は、伍(ご)の世界から来ているからだ。伍は想像物を否定した世界。つまり、ここ、壱(いち)とは逆だ。壱は想像で溢れている。想像がない世界伍から来た者が壱に入ると、こちらの世界が危ぶまれるかもしれん。想像物であるこちらの神が、伍のデータを万が一でも取り込んだらまずい。神が消える。故に、高天原はリカを殺しに来ている……と言うことのようだ」
栄次の言葉を続けるようにプラズマが口を開く。
「通常、伍のやつらは壱には来れない。世界のプログラムが違うはずだからな。だが、リカは誰かの干渉により、この世界に入ってこれたんだ。入れてもリカは伍の住人。当然伍のルールを通そうとデータが動く。しかし、壱は想像物を信じる世界。想像物を信じない伍のルールは通じない。だから、通常はあやまって違う世界に入ってしまったら消滅しかない。伍から壱に入った場合、伍のデータが壱のデータに書き換えられるため、入った者の伍のデータが消滅。即座に壱のデータに対応しなければ、壱に存在することはできねぇ。逆も同じだ」
プラズマは息を吐くと、再び続けた。
「しかし、リカは伍から壱に入った段階で壱のデータに自分を書き換えた。だから、壱に存在できている。もちろん、自分を幻想物だとプログラムしたことにより、壱だけではなく、『精神、夢、霊魂』の世界である弐(に)にも入れているんだ」
プラズマの言葉にアヤは首を傾げた。
「リカは……じゃあ、想像物がない世界から来た……時神ってことかしら? 想像物がないのに、なぜ時神に?」
アヤは再び、プラズマを仰いだ。
「それはわからない。とりあえず、リカの裏には高天原の神よりもヤバい奴がいる。伍の世界は見ようがない。俺達が伍に入ったら間違いなく消える。俺達は神だ。幻想だ。伍の世界とは矛盾になるだろ?」
「……そうね」
プラズマにアヤは頷く。
「とりあえず、今はリカを守るしかない。……リカは時神……?」
栄次はリカを立たせようと手を貸したが、そのまま止まった。
「栄次?」
「仮説だが……リカの繰り返しは……リカ自身が行ったのではないか?」
栄次はリカを見据える。
リカは震えながら首を横に振った。
「私は何もやっていません!」
「ああ、責めているわけではないのだ。世界の辻褄合わせで、壱に入ったリカが一番都合良くできる運命をリカ自身が無意識の内、書き換えているのではないかと。つまり、無意識に時間を巻き戻しているということだ。自分が関わった者の時間も共に巻き戻しているのだろうな……。リカの身体は、無意識に壱に居続けるため、最適な道を探しているということなのかと……」
「私は壱に居続けようと思ってはないんですけど……、無意識にと言われると、そうなのかもしれないと思ってしまいます」
栄次の仮説にリカは目を潤ませた。
それを見たプラズマはリカの頭を優しく撫でながら頷く。
「……ありえるぜ。それ。神はデータの塊だ。世界の軌道修正には無意識に従うんだ。あんたはなぜか、元々、伍に存在する神だった。それが、誰かの干渉により無理やり壱に飛ばされ、壱に入ったことにより、あんたの身体にあるデータが最適なルートをずっと探し続け始めて、こんなことになってる。俺は栄次は正しいと思うね」
「難しくて……わかりません」
リカは弱々しくうずくまった。
「まあ、とりあえず、あんたはまた剣王やワイズに追いかけ回される。ワイズはサングラスかけた幼女なんだが……」
「……一回前にみましたよ。奇抜な格好している幼女が瀕死の私を覗き込んでました」
リカはちいさくつぶやいた。
理解されたのは嬉しいのだが、不安でいっぱいである。
あの幼女が誰かもよくわからないが、オモイカネという名前を古事記で見た気がする。
確か、老人の知恵を集めた神だとか。
老人の知恵を集めた神なのに、幼女とはなんなのか。
神のことはよくわからないが、幼女になった理由もあるのかもしれない。
「……と、いうかまだ、ワールドシステムが開いてない! 私が泣きまくっても変わらないんだ……」
リカが思い出したように声を上げた。
「ワールドシステム? 何よ? それ」
アヤはリカの言葉を拾い、不思議そうに尋ねた。
「わからないけど、世界のシステムに干渉できるなら私のループも止められるかもと思ったんだ。それには……アヤの血がいるみたいで……」
リカが言葉を切った刹那、アヤが軽く微笑んだ。
「そう。だから、私を攻撃してきたのね。豹変したからびっくりしたじゃないの」
「アヤ……ごめんね。ナイフが出てきた時、私……」
「いいわ。それより、栄次がかなり思い切り押さえつけたみたいだけれど、怪我は?」
アヤはリカを心配している。
リカは心が傷んだ。
何をやってしまったんだろうと頭を抱えるばかりだ。
「ちょっと……痛かったけど、私が悪いからね」
「すまぬ……」
栄次は申し訳なさそうに目を伏せた。
「いいんですよ。栄次さん。もっと思い切り止めてくださっても良かったんです」
「それはいかぬ……」
栄次はリカを抱き上げた。
「あ、あの……歩けますから……」
焦るリカに栄次は悲しげな表情を向けた。
「無理をするな……震えているだろう。少し落ち着きなさい」
「栄次、これからどうすんだよ?」
プラズマはリカを心配しつつ、眉を寄せた。
「敵を排除しつつ、情報を集める。奴らはおそらく、また来る。リカの存在を消しに来るはずだ。高天原のやつらは、『想像物が生きている、この世界を守る』という世界から与えられた使命を持っている」
栄次は辺りに気を張り巡らせている。長年の経験から反応は早い。
「ワールドシステムというのに入れば、リカのデータを変えることができるのかしら? 私の血が必要ならいつでもあげるわ……」
「アヤ……本当にありがとう……。でも……ワダツミが持つ矛がいるんだよ。私はワダツミの矛を貸してもらったんだけど、消えちゃったんだ。あと、思い出したけど、『ケイ』ってなんなの? ワダツミのメグに、伍に情報を持ち帰るのは『こちらの神とケイが許さない』って言われたんだ」
「ケイ……。『K』かしら? わ、私の友達が『K』よ……。Kは『神とは違って、平和を愛して世界を守る』データを持つ種族よ。詳しくは知らないのだけれど」
アヤは恐ろしいくらいに様々な者と知り合いだ。
メグがアヤに相談すると良いと言ったわけがわかった。
まあ、それは、情報がある程度出ている今だからわかることなのだが。
「とりあえず、『サキ』に連絡するわ」
アヤが発した言葉により、リカがまた震えた。
「アヤ、サキには……」
リカにはトラウマがある。
せっかく前に進んだのに、ブラックアウトしてもう一度やり直すのは、今度こそ心が死んでしまう。サキが出てくる運命で成功したことはないのだ。
「サキは私の友達で霊的太陽の頭。高天原とも繋がってる。ああ、この壱の世界はね、勢力が沢山あるの。神々の世界、高天原は東、西、南、北でそれぞれ統括している神がいて、その他に霊的太陽、霊的月を守る神がいる。だから、霊的太陽の頭のサキに高天原の情報を教えてもらおうと思ったんだけれど、ダメかしら?」
アヤはリカの様子を見ながら、困惑しつつ、尋ねてきた。
「……もう一度、やり直さないといけなくなるかもしれない。地雷があるんだ。言葉の地雷が。運命に組み込まれてしまう『会話』がある」
リカの震えが酷くなっているので、栄次が落ち着かせながらアヤに言う。
「ならば……アヤ、高天原の動きだけ聞き出してくれ。他には答えるな」
「ええ」
アヤは慎重にサキに電話をかけた。
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