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「この住宅……」
リカは一度栄次と来た、億物件がある場所を思い出した。
そういえば、あの土地で変な気配がしていた。タケミカヅチとぶつかった時、あの土地から漂う不気味な恐怖は神力だと気がついた。
「……今度も……殺される?」
「……大丈夫か?」
リカの震えが再び酷くなり、栄次がアヤとプラズマを呼んだ。
「リカが震えているのだ」
「どうした?」
「どうしたの?」
プラズマとアヤが心配そうにリカを見た。リカは細々と小さな声で言葉を発する。
「売り出しの……土地があるんです……。そこで、タケミカヅチの神力がして……、栄次さんと一緒にいたんですが……ころされ……」
リカの言葉を聞いて、栄次が思い出すように自身の額を撫でた。
「ああ……歴史神ナオのところへ行こうとして……剣王がな。俺は知らないが、過去の俺がいた」
「行かない方がいいのかしら……」
アヤは迷っていた。おそらく、この道を行かないとたどり着かないのだろう。
「行こうぜ。なんとかなるよ。行かないんなら、どーすんだ?」
プラズマは腕を組んで辺りを見回し始めた。家が密集している場所だ。小さな道は山へ続いている。この辺は坂の多い住宅地なのだ。
「ごめんなさい。行きます……」
リカは震える声でつぶやいたが、時神達は眉を寄せていた。
ひとりで、もがいていたあの時の緊張感がなくなり、リカは弱々しくなっている。
迷わない、負けないと心に思っていてもリカはまだ少女である。
心には恐怖心があるのだ。
「リカ、大丈夫だぞ。俺達はあんたの味方するから」
プラズマはリカの頭を軽く撫でると親指を立てた。
「ありがとう……ございます。とりあえず……行きます」
リカは息を吐くと、栄次を仰ぐ。
「……では、進むか」
栄次がつぶやき、一同は再び歩き出した。
しばらく歩くと異様な気配がした。ちょうど、例の土地がある辺りだ。
「なるほど。ここかあ。そんなに広い土地じゃないが、駅近だから高いのかな?」
「プラズマ、無駄口は後にしろ……。殺気だ」
栄次はリカをプラズマに押し付けると、刀を抜いた。
「また、あいつか」
プラズマが慌てて避けた辺りで、栄次が刀で剣王の剣を受け止めていた。しかし、またも受け止めきれず、今度は肩を軽く切られてしまった。
「風圧か……。すさまじいな……」
「栄次っ!」
「プラズマ、いいから避けろ!」
剣王の剣撃がリカに飛ぶ。咄嗟にアヤが『時間の鎖』を飛ばし、プラズマの足の時間を早めた。
「ううっ! さっきより剣王が早いっ!」
プラズマは避ける段階で頬を軽く切られていた。
「あーあー、時神を傷つけちゃったじゃないか~……。手加減は難しいんだよねぇ」
「ちっ、本気じゃねーのかよ」
プラズマはリカを庇うように抱きしめると、霊的武器銃を至近距離で撃った。しかし、剣王は首を軽く傾けただけで避けてしまった。
「うー、化け物感漂ってるな……」
プラズマはとにかく、全速力で逃げ始めた。リカを取られたら敗けだ。
栄次は剣王を退けるべく、刀を振るう。しかし、まるで当たらない。
アヤは少し遠目で剣王の動きを観察していた。とりあえず、神格の確認を行う。
「……相手は武神……軍神……そして……雷神……。そう、彼は雷神……、プラズマっ!」
アヤは咄嗟にプラズマを呼ぶ。
プラズマが振り向いた刹那、あり得ない雷が一直線にリカに飛んだ。
「剣王は雷神よ!」
アヤの叫びもむなしく、恐ろしい閃光と雷鳴が響いた。
「プラズマ! リカ!」
アヤは涙目でふたりを探す。土埃と光でよく見えないが、影は二つあった。
「大丈夫だ! 栄次が!」
土埃が晴れて、プラズマの前にいたのが栄次だということがわかった。栄次は刀を使い、電撃をうまく受け流していた。
「危なかったな……。プラズマ、走れ! また来るぞ!」
プラズマが再び走り出し、栄次は電気を帯びて触れない刀を一度消し、もう一度霊的武器として出した。
「もっと早く……時間の鎖を巻かないとっ!」
アヤは焦りながら時間の鎖を何度も出現させたが、剣王は見事に、その通りに速さを合わせてきていた。
「速すぎる……私じゃあ……もう……」
「仕方ないねぇ~、現代神を先に眠らせとこうかなあ。このままじゃ、未来神を殺しちゃうからさ」
剣王は標的を突然にアヤに変えた。
「アヤ!」
プラズマの声が響き、まばたきをした瞬間、アヤの目の前に剣王が立っていた。
速すぎる。動きすらも取れなかった。
「怖い……何も……しないで……」
アヤは震えながら後退りをしていた。今にも斬り殺されそうな威圧がアヤを襲う。剣王は冷たい瞳でアヤを居抜き、強い神力を向けた。
格上の神力を受けたアヤは涙を流し、震えながら、剣王に無理やり膝をつかされ、平伏させられていた。
剣王は神力を出す以外に、なにもしていない。
「かっ……体が……うごかなっ……」
「ひでぇ奴だな! アヤはまだ若い神だぞ!」
プラズマが剣王に飛びかかろうとした刹那、栄次がアヤを抱え、剣王から遠ざかった。
「アヤ、大丈夫か……。お前までも狙われるとは……。無理はするな。怖かっただろう」
栄次はアヤを下ろし、再び刀を構える。
アヤは先程の神力を浴び、体力をかなり消耗していた。
「ど、どうしたら……」
アヤが戸惑う中、栄次は剣王を攻めていく。
「ん~、間違えて斬りそうだなあ……。おっと、ごめんごめん」
「ちっ、斬られたか。かわしたはずなのだがな……」
栄次の袖が斬られ、着物が破けていた。
「君、時神でしょ~? なんでそんなに強いわけ? それがしの軍に入るかね? 西の剣王軍に。北の『冷林』軍なんておもしろくないでしょ~?」
剣王は抜けた話し方のまま、高速の剣技を栄次に繰り出し、雷をプラズマ方面に飛ばしていた。
「プラズマっ!」
アヤが疲弊しつつ、プラズマに時間の鎖を巻き、早送りをした。
プラズマはそれにより、危なげに雷を回避できた。
「ああ~、もう……現代神……余計なことしないー……。さっき気絶しときゃあ良かったんだよ。それがしはわりと……女に容赦はないんでね。次は……」
剣王の言葉にアヤはわかりやすく震えた。それを見た栄次がすばやくアヤの前に入り、刀を構え、剣王を睨み付けた。
「アヤはまだ若い。脅しはいかぬ」
「あ~、なんか悪者みたいじゃない~。邪魔しなきゃ、なんもしないよ。データを排除しにきただけだしな」
剣王は剣を返して栄次に斬りかかる。栄次は刀で剣を受け止めるが、じりじりと押され始めた。
「……すごい力だ。これが武神か」
「くっ!」
プラズマが栄次を助けるべく光線銃を放つ。光線銃は的確に剣王の額を撃ち抜いたはずだが、剣王は首をわずかにずらし、またかわしていた。
「あたんねーんだよな」
プラズマが苦笑いをした間に栄次がアヤを連れ、剣王から離れた。
リカはプラズマに抱かれながら半泣きでどうすればいいのか考えていた。
「このままじゃ、時神さん達が傷ついてしまう……。私が勝つしかないのか。勝つしかないのかも」
リカは震える手で霊的武器ナイフを出現させた。
「リカ、やめなさい」
栄次がリカのナイフをすばやく奪い取る。リカのナイフは手から離れた段階で泡のように消えていった。
「でも……勝つしか……」
「やめとけよ。あんたじゃ勝てない。栄次が勝てないんだ。無理だ。栄次はな、かなり強いんだぜ」
「……どうすればいいの。逃げられないじゃないですか……」
リカは目を伏せ、唇を噛み締める。
「……私が血を流すわ。ワールドシステムというのを出してみる?」
アヤが汗を拭いながらそう言った。
「アヤさん……」
「……早くしなさい。ナイフを出して!」
剣王が動いたので栄次も動き出す。アヤは手をリカに差し出した。
「う、うん……。指の……先だけ……ごめんね……アヤ」
リカは再びナイフを出現させ、アヤの指先を軽く切った。
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