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「……っ」
アヤが痛みに顔をしかめたのと、血が下に落ちるのが同時だった。アヤの血が下に落ちた刹那、五芒星が広がり、ワールドシステムとやらが開いた。
頭に無機質な音声が聞こえる。
……ワールドシステムを開きました。ワダツミの矛はお持ちですか?
再び、無機質な音声はワダツミの矛があるかどうかを聞いてきた。
「ワダツミの矛はない」
リカは恐る恐る言葉を口に出した。
……では、矛に変わるデータはお持ちですか?
……世界の創世に使われた武器又は神具などです。
「……なに言ってるのかわからない」
リカが頭を抱えていると、無機質な音声は壊れたかのように同じ言葉を繰り返しはじめた。
……アマノミナカヌシのデータがあなたをブロックしました。
……アマノミナカヌシのデータがあなたをブロックしました。
……アマノミナカヌシのデータが……
「ま、待って!」
無機質な音声が遠くに聞こえるようになっていく。
消えていっている。
「お願い!」
リカは誰にともなく叫んだ。
もうダメかと思った時、再び五芒星が光り始めた。
「……え?」
「なにやってんのかと思ったら派手に暴れてんねー! で? これは何してんの?」
知らない少女の声がした。
目を動かすと、億物件の土地に銀色の髪の少女が剣を手に立っていた。
年はリカと同じくらいだ。
銀髪カールでかわいらしい服装の不思議な雰囲気の少女。
「誰だ? あの娘……普通じゃねーな……」
「サヨ! 来てくれたのね」
アヤだけが安心した顔をしていた。
「サヨ……ああ、『K』ってやつか! 平和を願う世界のシステムデータみたいなやつ?」
プラズマが言い、アヤが頷いた。
「あ~……君はKか。厄介なのが来たねぇ」
剣王は栄次への攻撃を止め、銀髪の少女を仰いだ。
「アヤが突然、チャット使ってくるからビビったじゃーん」
銀髪の少女サヨは軽やかに笑った。
「アヤ、いつの間に……」
「栄次とプラズマが頑張ってくれていた短い時間にかけてみたの」
アヤの言葉にプラズマははにかんだ。
「まあー、それよりね、そこの土地で剣拾ったんだけど」
「……っ!?」
サヨが呑気に剣をかざしたので、アヤ達は驚いた。
剣王だけはため息をつく。
「あー、なんで、『イツノオハバリ』がこんなとこにあるわけー? 困惑だよ……」
リカは剣を見て、目を見開いた。
この神力をずっと感じていた。
神力はタケミカヅチの雰囲気と同じ。
不気味な感じはしたが、この場所に剣はなかったはずだ。
リカは気配だけは前々から感じていたのだが。
「イツノオハバリ?」
「あー、それがしの父の別名だねぇ。『K』には電子データがみえてしまったかあ……。まあ、いいよ。本物はこちらにある。『アメノオハバリ』!」
剣王は美しい十拳剣(とつかのつるぎ)を出現させ、不敵に笑った。
「イザナギがカグヅチを斬った剣……で、その飛び散った血から……タケミカヅチが生まれる……」
リカは古事記で読んだ部分を思い出していた。理解はできていないが、アメノオハバリという単語で思い出した。
この不気味な雰囲気の土地にタケミカヅチの神力がしたのは、タケミカヅチが関係する剣があったからだったのだ。
別名とのことだが、アメノオハバリとは違うのか?
剣王の雰囲気が変わった。
すでにあちらこちらから血が流れ出ている栄次は息を吐くと、刀を構える。
「そういえば、ワールドシステムが消えていない……まさか」
リカはひとつの仮説にたどり着いた。サヨが持つ『イツノオハバリ』を眺める。
「Kの少女よ、手を退け。イツノオハバリを消せ」
剣王はサヨを睨み付けていた。
「えっと、サヨさん! それで、ワールドシステムをっ!」
リカが必死に叫ぶと、剣王が動き始めた。
「余計なことはするなよ、『K』……」
剣王は飛び上がり、サヨを襲い始めた。
「平和を願う『K』を攻撃するのはどうかと思うんだけど……。ごぼうちゃん、弾けっ!」
サヨはカエルのぬいぐるみを出現させると、剣王の攻撃を危なげに弾いた。
「なんだあ? カエルのぬいぐるみが動いてるぞ」
プラズマは呆然とサヨを眺めていた。
「まずい。あの子は危うい!」
栄次は後ろから剣王に斬りかかる。剣王は剣を振り抜いて栄次を斬りつけた。
「しぶといね~、君は。今のかわせたの?」
「かわさねば、斬られるだろう」
栄次は前触れなく、高速で袈裟に斬り下ろしたが、剣王は逆袈裟に斬り上げ、金属同士の甲高い音を立ててぶつかってしまった。しかし、霊的武器同士なため、刃こぼれはない。
栄次は力負けをしていたが、力を抜くと、肩からバッサリと斬られてしまうため、受け流せずに、耐えるしかなくなった。
プラズマが銃を放ち、剣王の力を一時ゆるめさせ、そのうちに栄次は逃げた。
「プラズマ、助かった」
「強いな……あいつ」
「これ、持ってきたよーん! あんたらさ、これ使う?」
ふと、サヨが横にいた。
「あんた、いつの間に!」
「さっき、サムライさんが頑張っている間に横から逃げたよん。めっちゃ、軽い。なんなんだろ? これ」
サヨは笑いながらイツノオハバリを軽く振っていた。
「肝のすわったおなごだ」
栄次は冷や汗をかきながら、刀を構え直す。
「で、どーしたらいーわけ? あんた、知ってる?」
サヨはリカに尋ねてきた。
「きっと、私が触ったら消えちゃうから、サヨ……さんがワールドシステムを開いてください」
「ワールドシステム?」
再び剣王が飛びかかってきた。
「栄次!」
アヤが時間の鎖を栄次に飛ばし、栄次の反応を早くする。
「今のうちに、なんとかして」
アヤは肩で息をしていた。先程からずっと時神の力を使っていたのだ。神力の限界がきていた。
「なんとかって……全然状況わからないんですけどー……、ま、いいや、五芒星に刺してみよー」
サヨは困惑したまま、持っていたイツノオハバリをとりあえず、地面に刺した。
五芒星が光り、再び無機質な音声が聞こえる。
……「K」からコンタクトがありました。ワールドシステムを開きます。
……ワールドシステムは幻想世界なため、壱(現世)では展開できません。
……弐(霊魂、精神、夢)の世界よりお入りください。
「……え?」
サヨが首を傾げた刹那、五芒星は跡形もなく消え、無機質な音声も聞こえなくなった。
「ウソ……閉まっちゃった……?」
「……弐の世界でないと入れない? そんなっ……」
リカが戸惑い、プラズマが眉を寄せる。
「じゃ、弐の世界行く?」
サヨは別段焦る風もなく、戦う栄次を眺めながら尋ねてきた。
「どーやって行くんだよ。こんな状態だぞ……」
「『K』は主に弐の世界にいるじゃん。知らないの? あたしらの仕事場は『弐』なんだよーん。弐に入るの簡単じゃん? あたしがいれば、弐を自由に動けるしね」
「マジかっ。反則かよ」
サヨはイツノオハバリをもてあそびながら、プラズマに笑いかけた。
「んじゃ、早く行くぞ。見ろ、栄次が辛そうだ。どーやって行くか知らないが、さくっと行けんだろ?」
栄次は髪紐を切られ、身体中切り傷だらけだった。
「うっわあ……酷いね……」
サヨがつぶやいた刹那、剣王がため息をつき、手を止めた。
「あー、もうめんどくさい。時神を殺さないようにするので精一杯だよ~。さっさと、そこの娘を渡してもらおうか」
剣王は神力を強く辺りに撒き散らした。神々しく、荒々しい力が時神達を襲った。
タケミカヅチの神格は遥か上。
剣王が力を出したら時神は勝てない。
先程よりも強力な神力でまず、アヤが失神した。
「ふん、出しすぎると皆死んじゃうからね~、手加減が難しいなあ~使いたくないんだけど」
「あっ……アヤ……」
プラズマがリカを抱きながらアヤの元へと行くが、立っていられなかった。
栄次は膝をついたまま、剣王を睨み付けている。
「う、動けぬ……。剣王……アヤが死ぬぞ……。頼む……やめてくれ」
栄次は苦しそうに切れ切れに言葉を紡ぐが、剣王は力の解放をやめなかった。
「それがしは女にはそれほど容赦はないが、男にはさらにない」
剣王は軽く笑うと、栄次にさらに威圧を向ける。
栄次は苦しそうに血を吐くと、そのまま気絶した。
「はい、二人目。じゃあ、後、君達だけかなあ? プラズマ君、君は栄次よりも神格が高い。そうそう倒れないかな」
「ちくしょう……サヨだったか? ……あんたは平気なのかよ?」
「え? 何が?」
プラズマはサヨが平然と立っている事に気がついた。
「こんな神力を浴びてんだぞ! 平気なのか!」
「神力……あたしは神じゃないからわからないんですけどー」
サヨは動揺しながら倒れた二人を眺める。
「そっか。じゃあ、さっさと、弐に連れてってくれ! 俺もそろそろ……」
プラズマは歯を食い縛って耐え、リカを離さなかった。
「わけわからないけどっ、弐の世界管理者権限システムにアクセス『入る』!」
サヨが叫び、足元に先程と違う五芒星が出現し、剣王以外を光に包んだ。
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