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年をとって、収入も安定し人生に退屈を感じ始めたころ、僕の心に色彩を与えたのがひとみちゃんだった。
上京して東京の事を知らない彼女にあれこれ教えてあげるのは楽しいし、目がきらきらと輝いてるところやはずんだ声を聴いていると、現実を忘れて穏やかな気持ちでいられる。
燃えるような情熱を感じるような感情じゃないから、これを恋と呼んでいいのかわからないけど、ただ永遠に、ずっとこのままでいてほしいと願ってしまうんだ。
年齢も、境遇も、住んでいる世界も、全てが違うけど、ひょんなことからぼくたちは出会えた。もし、本当に神様がいるとすれば、運命のいたずらを仕組んだことにすごく感謝している。
「手、繋いでもいいですか?」
「もちろん。けど君から手をつなぐなんてめずらしいね。どうしたの急に」
彼女から僕の手を握ってきたが、ひとみちゃんの小さな手では包み込めず、僕の大きな手を覆うのが精いっぱいだ。
「さっき、窓に反射した貴明さんと私が手をつないでる姿が、なんだか夢みたいだなって思えて」
彼女が少し後ろに下がったので、僕も続けて後ろへと下がった。もう一度エレベーターの窓ガラスを見つめると、さっきと同じでスーツの僕とドレスの少女が向こう側にいる。いざじっくり見てみると、床下の淡くあたたかい光が幻想的で、自分自身で言うのもどうかと思うが……すごく絵になっていると思う。ひとみちゃんが夢みたいと言ってしまうのも納得できる。
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