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その夜、沙羅は僕のベッドの中にいた。
「……ねぇ、サラ、いつの間に、そんなことまでできるようになったの……?」
僕は彼女の髪を撫でながら、口の中をいっぱいにしている姿に少し戸惑っていた。
誰が教え込んだんだ。そう思いながらも僕の腰は快楽に満たされていく。
このままだとヤバいな。
「さあそれでおしまい。僕にもさせてよ」
「やだあ、まだ…‥‥」
彼女の手を掴んで、腰を引くとベッドに組み敷いた。彼女の脚の間に顔を埋めると甘い声と共に背中が反り、僕の顔に飛沫が掛かる。
こんなに感じやすい子だったっけ。
どれだけの男と寝てきたんだ、と思うと少し妬ける。
少し乱暴に沙羅の中に入った。
「あ、んあっ、ジン、ぁ……あ……やっぱり一番これが好き……」
こう言われた時は、僕の事が好きなのかな、なんて調子に乗ったんだ。
一番好きだなんて言うものだから。
彼女ははっきりと言ったのに。これが好きだと。僕じゃなくて、これが好き、だって。
その意味に気付いたのは、他の男の跡をつけて僕に会いに来た時だった。
「他の男の跡付けて、よく会いに来れるよね」
「私はカフェに美味しいもの食べに来ただけだよ? ジン君も食べるのが大好きでしょ?私のことも」
食欲旺盛な彼女は、僕の唇を食べるようにキスをした。きっと他の男の唇もこんな風にして食べつくしているんだろうな。
あの日以来、たまにふらりとカフェで食事をしては、僕の部屋に泊まっていく。
左手の薬指に指輪をしてるクセに、沙羅は僕と寝ると朝までベッドに一緒にいる。
「サラ、君のダンナは、君が外泊するのを怒らないの?」
何度目だったろう。沙羅が僕の部屋に泊まった時。
彼女の髪を梳きながら、僕は訊いた。
「……私がいいようにしていいんだって」
「どうして? 僕ならそんなの考えられないけど」
「ダンナは十五も上の人よ。そして、私よりも、ずっと長く一緒にいて、愛してる人がいるもの」
どうしてそんな人と結婚したのか、そんな結婚生活に意味があるのか。
元カレとは言えど、再会してロクに話もしないうちに、会っては寝る関係に陥っている僕にそんなことを訊く権利もない。今の僕は、彼女の数ある”寝る男”の中の一人でしかないのだから。
それに、そういう関係は責任が無くていい、という気楽さがあるということに、僕はとっくに気付いてしまっていた。無責任な快楽は忙しい毎日にちょうど良いスパイスになっている。だから僕は沙羅がやって来る度に身体を重ねているのだった。
こんな状態の彼女に本気になったら、仕事なんかできなくなる。
彼女も僕のこれが好き、だとは言っても、僕の事が好きとは言わないのだから。
久しぶりに大学の後輩のユウジが食事に来た。
「ヒトシ先輩、相談があるんですけど」
「おうどうした?」
「弁護士紹介してほしいんですが」
話を聞くと、昔の彼女と再会し、その彼女はDVに遭っているので離婚するために弁護士を立てる必要があるということだった。
翌日に詳しく話を聞いた。
「なあユウジ、久しぶりだから酒飲もうよ」
「昼間っからですか? 勘弁してくださいよ先輩」
ランチタイムなのに、僕は話を聞く為にはとても素面ではいられなかった。ユウジと僕は同じような境遇なのに、祐士は本気で彼女と向き合って救おうとし、片や僕は無責任に体の関係を楽しんでいるだけだった。
「そんなわけで離婚とかDV問題に強い弁護士いませんか」
「あー、そうか、うちの顧問弁護士に訊いてみるよ。お前に直接連絡してもらっていいか?」
「大丈夫です」
「大変だな、お前も……だけどその位彼女が好きなんだな。そんなに好きになれる女性がいるってなかなかないと思うぞ。素晴らしい事だな」
「どうなんでしょうね……」
ユウジは晴れない表情をしていたが、本気で人を愛せる彼が羨ましかった。
「ユウジ、彼女とは、寝てるの?」
「はあ⁈ 何聞くんですか、酔ってますね、ヒトシ先輩」
ユウジが冷たい視線を送って来る。そんな視線も酔い覚ましにちょうどいい。
「そこまで好きな女なら、抱くでしょ?」
「ええ、まあ」
「……彼女はダンナとか他の男とかとは寝てないの?」
何でそんなことを真っ昼間から尋ねてくるのか、という顔をしながらもユウジは答えた。
「……俺だけです。向こうにも相手がいるらしくて、全くダンナとそういうことは無いらしいので」
「お前愛されてるんだな」
「愛されてることになるんですかね」
「だって、お前だけなんだろ、彼女を抱くのは」
「この先は、どうなるかわかりませんけどね……」
ユウジもこんな話題では飲まないとやってられないと思ったのか、焼酎のグラスをあおった。
いや、多分その子は、ずっとお前の事が好きだよユウジ。
それとかあれとか扱いの僕とは違う。お前はちゃんと、愛されてる。
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