ありふれた殺人

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 あれから何日経ったのだろうか。ジョエルによって日付はおろか時間感覚すら奪われていた私にとって、不器用に板張りされた窓から差しこむ自然光だけが、今が朝なのか夜なのかを判断する材料になっていた。  診療所から戻るたびにジョエルは私の首を絞め、自らの理性と闘うように乱暴なセックスを私に強要した。身も心もボロボロになった私は何度死”を願ったことだろう。  残酷にも、今日もまた私は目覚めてしまった。マットレスがむき出しになったベッドに横たわりながらぼおっと天井の木目を数えていると、どこからか音が聞こえてきた。  扉を叩くような音は次第に大きくなっていき、なにやら人の声も聞こえる。ジョエル以外の第三者の存在に、私は一気にベッドから跳ね起き、声がよく聞こえるように窓へ移動した。 「――さん! ドノヴァンさん! いらっしゃいますか? お届け物ですよ!」  マイクだ! そうか、今日は半月に一度の配達日だったのか。私は羽目板の隙間から大声で彼を呼んだ。 「マイク! マイク! 聞こえるかい?」 「ドノヴァンさん? どちらにいらっしゃいますか?」 「玄関横の、左側の窓だ! 頼む、助けてくれ!」  私は藁にも縋る思いでマイクに助けを求め、これまでの経緯を話した。事情を知ったマイクの顔が青ざめたことが、板の隙間からでもはっきりと見て取れた。 「あのクラウス医師が……あなたにこんな酷いことを……」 「私は鎖で繋がれていて自力で逃げられない。一刻も早く警察を呼んでくれ。マイク、君にしか頼めないんだ!」 「わかりました、すぐに――」  マイクの声が途切れたと気づいた時にはすべてが遅すぎた。私は一連の惨劇を目の当たりにし、その場を一歩も動くことができなかった。  いつの間に戻ってきたのだろうか。  なぜジョエルがここにいる。  水曜日の午後は休診日。私の考えがその答えに到達するまでの間、ジョエルはマイクの首を背後から彼の強くしなやかに鍛え上げられた両腕で絞め続けていた。 「あ……ぐぅ、た……助けて、ドノヴァンさ…………」  それがマイクの最期の言葉となった。  ジョエルが首を絞めるだけでは飽き足らず、マイクの首を本来曲がるはずのない方向にへし折ったのだ。人の首が折れる形容しがたい音が私の脳内にまるで呪いのように何度も反響した。  視界からふたりの姿が消えると私はそのまま壁にもたれ、現に目の前で起きた殺人をどう処理すればいいのか、とにかく何もかもが混乱していて、ただただ壁に背を預けたままの状態から動けなかった。すべてが夢であってほしい。それが悪夢だったとしても。
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