ありふれた殺人

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 マイクの遺体は決して綺麗とは言い難かった。特に生前の精悍な顔立ちは苦悶に満ちた形相をしていた。  死後硬直が解けるまで待とうと考えはしたが、マイクをこのままの状態でーージョエルに絞殺され死してなお、何度も弄ばれ傷つけられた身体を放っておくことはできなかった。  私はマイクをバスルームまで運び、ジョエルに穢された身体を隅々まで清めた。マイクには申し訳ないが、アナルの中まで指を掻き入れ、ジョエルの精液や体液を徹底的に洗い流した。  それから私の手持ちの服の中からマイクに合いそうなものを着せ、彼と一緒に山小屋から出た。外の世界は凍てつくほど寒く、雪に反射した光が監禁されていた私の目に眩しく突き刺さる。  私は雪がより高く降り積もった場所にマイクを埋めた。先程連絡した警察に見つけてもらうまで、彼の身体を綺麗に保っておくために。  マイクを弔った私は一度ガレージに行き、買いこんでおいた灯油を手に山小屋に戻った。寝室には顔の判別もつかないほど滅多刺しにしたジョエルの死体が横たわったままだ。  私は安心した。この男は何度刺されようとも蘇るのではないかという恐怖が常に私の中に存在していた。  ジョエルから視線を外し、私は寝室を見やる。  何も未練は無い。  私はジョエルの死体に灯油を浴びせ、そのまま導火線のように垂らしながら廊下を通り、玄関まで出た。ポーチに出たところで、灯油が尽きた。  山小屋からは充分離れている。私はライターで火を点けた。火はみるみるうちに私の山小屋へ蛇のように這って行き、やがて小屋全体を覆い尽くす炎に成長した。  妻子と別れ、独りで住み続けて十数年。自分でも驚くほどかつての住処が炎に包まれていくところを見ても、何も感じなかった。  今あるのはマイクへの後悔。それからジョエルに対しては骨の髄まで焼きつくされればいいと強い憎悪が残っていた。  着の身着のままで山小屋が朽ちていく様子を見守っていた私は、いつの間にか騒がしいサイレンの音と赤と青の光に囲まれていた。思っていたよりも到着が遅かった。麓からの一本道が雪のせいで塞がれていたのだろうか。  何人かの制服警官が私の周りに集まりーー誰かに毛布を掛けられたーー状況説明を求められた。山小屋の残骸にはすでに多くのレスキューが向かっていた。 「私はダニエル・ドノヴァン。通報した者です。あの小屋の中でジョエル・クラウスという男が死んでいます。麓の町医者です。彼がマイクという青年を殺したので、私がジョエルを殺しました」  私は淡々と事実を告げ、それからマイクを埋めた場所を案内し、彼を発見させた。  その後私は逮捕され、パトカーに乗ってここにやってきたということです。
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