貴方の元へ

5/5
前へ
/13ページ
次へ
 フィンは騎士の家系に生まれた。実家は長年王家とのつながりも深く、シェイマス王とフィンの父は親友と言って良い間柄だったという。  だからこそシェイマス王は、親友の遺した子を我が子のように熱心に育ててくれた。リシェイル王子が生まれれば兄弟のように、剣術や戦法を教えてくれた。そして、フィンが両親を恋しがって泣いた夜には、子守歌を歌ってくれた。 「生きろ、フィン・ウィスカ」  ディアーナの声を受け、フィンの目から涙が滑り落ちる。 「それが王命だ」  死を隠せと囁かれた瞬間から凍り付いていた感情が、唐突に吹き出した。フィンは膝から崩れ落ちるように、その場に座り込む。そして、焼けた大地に爪を立てて泣いた。  どれだけ涙を流しても、どれだけ苦痛の叫びを上げても、焼けつくような胸の痛みは消えなかった。生きて呼吸をすることが苦しくてならなかった。  それでも生きなければならない。  何故なら王は、フィン・ウィスカの死を許しはしないから。 了
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加