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リシェイル王子は臣下に連れられ、シェイマス王の眠る天幕へと向かった。フィンは追わなかったが、王子は気付かなかったらしい。幼くして母を亡くし、父を唯一の肉親として慕っていた王子は、父王のことで頭がいっぱいなのだろう。
フィンはペンダントを眺め、自分の身を焼いてくれないかと試しに願ってみたが、赤い宝玉は炎のような輝きを放つばかりだ。もしかするとトルバーン国王の名を告げれば地獄の業火が吹き上がるのかもしれなかったが、それだけはできなかった。
憎き仇の名を口にして生を終えることだけは、我慢ならなかった。
腰に佩いた短剣を抜く。
死は、恐ろしくなかった。いざとなれば躊躇するものかと想像していたが、自分の場合は違うらしい。それどころか、ようやく長年の夢が叶うかのような気分だ。
やっと、貴方の元へ逝ける。
躊躇いなく喉を突こうとしたその時、何かに殴打され、短剣が叩き落された。
「何をしておるかと思ったら」
魔女ディアーナだった。身の丈ほどもある樫の杖で、フィンの手を殴ったらしい。ついでに頭をごんごんと叩かれる。
「こんなところで、馬鹿な真似を、しおって、恥を知れ」
フィンはうつむいたまま、地面に転がった短剣を見つめた。太陽の光が反射している。
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