7人が本棚に入れています
本棚に追加
昔のこいつ
「ねぇねぇ!綾野さんってどんな本読んでるの?」
多分、最初に話しかけた言葉はこれだった気がする。
ほとんど話さなかったこいつと仲良くなろうと必死で悩んで話しかけたような、思い付きで話しかけたような、詳細はあまり覚えていないが、衝撃的な回答だったのは覚えている。
「俺、綾瀬ですけど。」
そう返されて私の顔が炙られたかの如く赤くなった。
その時のこいつはそう…一言で表すなら『陰キャ』だった。
だが、今目の前に居るこいつは何だ?
陽キャも陽キャ、まるでスパダリじゃないか。
双子?他人の空似?
様々な憶測が頭の中を駆け巡る。
しかし、彼はオムライスを置いたのを見計らうと私の肩をグッと引き寄せた。
「!?」
突然の事に戸惑うも、嫌がる言葉は彼の真剣な声色によって喉から出てこなくなった。
「お願いだ。俺の家のメイドになってくれないだろうか。」
…は?
「ここはメイド喫茶ですけど、そこまでの妄想にお付き合いする気はありません!」
そう小さな声で言った瞬間、こいつは口元に手を当て、そっぽを向いた。
わ、笑うなっ!
と、いうことは…?
私の背に悪寒が走る。こいつ、まじのお金持ち?
「時給はいくらですか。」
そう解った瞬間に私はそう口に出していた。
だって!このメイド喫茶だって時給2500円って言うから始めたんだもん!
「住み込みで時給3500円。」
淡々と彼は告げた。
その額の大きさに驚き、ポカンとする私に彼は言った。
「働いてくれるよな?」
「はい!」
また、瞬間的に言葉が口から飛び出していた。
私の悪い癖だと後悔してレジに立っていると、
すごいスピードでオムライスを平らげた彼がやってきた。
「2400円です。」
「お釣りです。」
そう言って釣り銭を渡した途端に彼は私の手を掴み、
手に小さな紙を握らせた。
そして意地悪く笑い、一言残して出て行った。
「期待してますよ。宮田さん。」
「は!?」
私の顔がまた、あの時のように赤くなった。
最初のコメントを投稿しよう!