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幸福の花の種
大城が話す間、吉沢は黙っていた。
大城が話し終わると、言いたいことはわかったと現すように、何度もうなずいた。
「確かに、お前の不幸さには呆れている」
次の日の同じ時間、大城と吉沢は再びいっしょにいた。
吉沢がよく来るという品のいいバーだ。
きのう、吉沢は大城に言った。
「呆れている。だからといって、見捨てるわけじゃない。できることなら、何とかしてやりたいと思っている」
吉沢はその答えとして、手のひらサイズの小さな紙袋を大城に渡した。
「これは?」
「『幸福の花の種』さ。その種を育てて花が咲くようになってから、俺はつきまくっている。信じようと信じまいとお前の勝手だ。何だったら帰りに捨てたっていい。ただやってみる価値はあるんじゃないか。特別な何かが必要なわけじゃない。植木鉢と土があればいいんだ。後は朝一回の水やりを忘れないこと」
吉沢はそう言って去って行った。
大城はひとり暮らしの部屋で育ててみることにした。
5日目に芽が出た。
10日で10センチくらいに成長し、20日で蕾をつけた。
『幸福の花の種』のことは内緒という約束だったので、それについて互いに話すことはなかった。
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