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『もうあの桜の樹は死んでしまったんだろうよ』
そんなふうに誰かが言っていた。
一年ごと、徐々に花数が少なくなっていたのは知っている。
今年は蕾すらつけない、本当にもうダメなのかもしれないって。
それでもまだ生きているのだと私は信じていた。
そっと老いた幹に抱きつくと、香る優しい匂い。
腕がまわりきらないほどの大木、通称百年桜。
高台の公園にある大きなソメイヨシノ。
樹齢百年とも、それ以上とも言われている一本桜だ。
ねえ、百年桜。
私はあなたのことを詳しくは知らない。
でもね、いつも私の夢に出てくるあの樹に、とても似ている気がするの。
大きく突き出たコブや、幹の曲がり具合。
違っていたのは、夢の中ではふんだんに桜を咲きほこらせていた。
重みで枝がしなるぐらい咲きほこった桜の樹を、私は……。
――あの人と見上げていた。
幼い頃から見た夢は、幾度となく喜びと悲しみを運んでくる。
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