いつか桜の樹の下で

3/4
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 白いシャツを着て笑うと目が細くなるあの人を私は知らない。  なのにどうして、鮮やかに、色鮮やかに。  目を(つむ)ると、彼の首にある黒子(ほくろ)の位置や、エクボさえ思い出せるほどに何度も夢を見た。  ある日短く髪を刈った彼が、ベージュの隊服に身を包み敬礼をした。  その姿に意味を知り、泣き崩れた私を。 『ボクは君を守りたい、だから』  だから行くんだよ、と。  泣きながら微笑むあの人に、嫌だと駄々をこねて止まらない私の涙。  交わした小指の約束は遠い遠い未来に想いを()せた。  ――いつか、  さよならの口づけを交わしてすぐに我に返ったのは。  耳をつんざくようなサイレンの音。  見上げた空に飛んでいた何基もの飛行機。  バラバラと落下してくる銀色の筒。  恐怖で動けなくなった私を、大丈夫だよ、と抱きしめてくれた。  私たち、あれから一体どうなったんでしょうか?    ねえ、百年桜。  あなたは知っているの?  あれは誰?  あれは私?  
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!