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「待って春香」
「え、今!? 軽くない?」
「え、俺結構勇気出したんじゃけど」
「いやいや、ここ病院だよ? TPO考えてよ」
「場所の問題なん?」
「場所とムードね。黒瀬くんだったら夜景の見えるお高いレストランとかで指輪パカっとかやってくれるんだろうなぁ」
「あ、ここで冬弥の名前出す? ホンマはまだ冬弥のこと好きなんじゃ……」
外に出ると冷たい風が頬を撫でた。桜の木についた緑の蕾が、暖かくなるのを今か今かと待っている。
「わたしの一番は、夏樹だから」
振り返ると、三つの泣きボクロを密集させて驚いた顔をした愛しい人がいた。手を差し出すと大きな手が重ねられる。お手、と思ったのは内緒だ。
「俺の一番も春香じゃけぇ」
「うん」
それからわたしたちは、どちらからともなくきらきら星を口ずさんで、歩きはじめた。
「プロポーズはやり直してね」
「……はい」
Fin.
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