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「そんなことよりさ、また四人で集まろうや」
「……わたしより黒瀬くん頼ったら?」
黒瀬冬弥。小中高と一緒で夏樹の親友。彼は一言で言えばクールボーイだった。銀縁の細いフレームの眼鏡に冷静沈着で、頭が飛び抜けて良かった彼は、高校を卒業後医大に行った。
「冬弥ね……」
夏樹はチビ、とビールジョッキに口を付けた。あざとい女子みたいで少しイラッとする。
春香、夏樹、秋菜、冬弥。わたしたちは小学校から高校までいつも四人で行動していた。小学校の先生に『春夏秋冬カルテット』と名付けられるほど仲良しで、家族より時間を共有していた気さえするほど毎日のように一緒にいた。あまりにも一緒にいるものだから先生たちも考慮してくれたんだろう。クラスが離れることは無かった。まぁ田舎町だったのでクラスも二クラスか三クラスほどしかなかったのだが。修学旅行も体育祭も文化祭も全部一緒だったのに、高校を卒業してバラバラになるとお互いに連絡さえ取らないほど疎遠になった。どうしてと言われても分からないと答えるしかない。それぞれの夢を追いかけてバラバラになった、ということにしておこう。
それから約十年。目の前に夏樹がいる。
「これ飲んだら帰る」
思い出に胸が痛くなったわたしは夏樹を見ずにそう言って二口で残りのビールを飲み干し、カバンから財布を取り出した。二千円を机に置いて立ち上がる。
「おつりはいらない」
数百円のおつりなんてくれてやる。身を翻そうとして、夏樹が机に突っ伏しているのに気が付いた。一瞬で自分の身体が冷えるのを感じる。やめてよ、治ったって言ったじゃん。
「夏樹っ……」
「おえ、気持ち悪い」
ジョッキ半分も飲んでいないのに、酔いつぶれたのは夏樹の方だった。自分で歩くこともままならない幼馴染を、介抱したのはわたしで。
つまりは、お持ち帰りをしたのは紛れもなく自分だった。
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