9人が本棚に入れています
本棚に追加
1
僕の家にろっくねこがやってきて二週間くらい経つ。ろっくねこはママが鍵屋でレンタルしてきた、鍵を開けたり締めたりする、つるりとした外見の二足歩行ねこ型ロボットだ。
空巣を発見してくれてから、僕はこのろっくねこに一目置いている。今日は何故かろっくねこが鍵屋に行きたいと言うので、二人で出かけることにしてみた。
なんとなく昨日からろっくねこの様子がおかしい。どうおかしい、と言われるとわかんないんだけど。
「ねえろっくねこの来た鍵屋さんてどっちだっけ」
「まーちゃん、ねこはろっくねこなので道案内機能ありません」
「僕の記憶が確かなら~……こっち!」
ろっくねこは自分の役割以外に興味がない。興味がないというか、ロボットだし。そっけなくも聞こえる返事だけど、そんなもんだと慣れてきた。
商店街を二人で歩いていると、ふとろっくねこが立ち止まった。
「まーちゃん、ろっくねこです」
「ん? 何が」
ろっくねこが見ている先を目で追うと、何人かの人が集まっている一角があった。
「なんだろ? 行ってみよう」
「ねこは……」
珍しくろっくねこが言い淀んだ。その表情からは何かを読み取ることが出来ない。だけどなんとなく、僕の心に引っ掛かる。
「行ってみよう!」
ろっくねこの手を引っ張って、人混みの一角へ歩いてゆく。もふもふとした手ではない、人工物の感触はひんやりと心地好い。大人しく僕についてくるろっくねこは、やがて手を繋いだまま僕を追い越した。
音楽が聴こえた。
楽器屋の入口付近でデモンストレーションを行っているのか、メロディが耳に飛び込んできた。
見覚えのある二足歩行のつるりとしたねこが、ギター? ベース? 僕にはよくわからないけど、弦楽器を器用に演奏していた。
「ん、あれって」
「あれはろっくねこです」
「ろっくねこはキミでしょ」
「LとRのろっくねこがいます。ねこはLです。あれはRです」
「えーと……」
ちょっと言っている意味がわからない。首をひねって考えていたら、ろっくねこはしっぽをぴたんぴたんさせた。
「Rock cat」
「うわ、頭来るほど発音がいいね。……兄弟かなんか?」
「ろっくねこはロックと呼ばれる音楽を奏でます。ねこの兄弟と思われるのは心外です。まったく違います。ねこはまーちゃんのご家庭の安全を約束しますが、ろっくねこは違います」
「ややこしいよ。もうどっちがどっち」
恐らく発音が違うのだろうけど、LとRの差が僕にはまったくわからない。ろっくねこは困惑している僕をじっと見て、またしっぽをぴたんぴたんさせた。
最初のコメントを投稿しよう!