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 僕の家にろっくねこがやってきて二週間くらい経つ。ろっくねこはママが鍵屋でレンタルしてきた、鍵を開けたり締めたりする、つるりとした外見の二足歩行ねこ型ロボットだ。  空巣を発見してくれてから、僕はこのろっくねこに一目置いている。今日は何故かろっくねこが鍵屋に行きたいと言うので、二人で出かけることにしてみた。  なんとなく昨日からろっくねこの様子がおかしい。どうおかしい、と言われるとわかんないんだけど。 「ねえろっくねこの来た鍵屋さんてどっちだっけ」 「まーちゃん、ねこはろっくねこなので道案内機能ありません」 「僕の記憶が確かなら~……こっち!」  ろっくねこは自分の役割以外に興味がない。興味がないというか、ロボットだし。そっけなくも聞こえる返事だけど、そんなもんだと慣れてきた。  商店街を二人で歩いていると、ふとろっくねこが立ち止まった。 「まーちゃん、ろっくねこです」 「ん? 何が」  ろっくねこが見ている先を目で追うと、何人かの人が集まっている一角があった。 「なんだろ? 行ってみよう」 「ねこは……」  珍しくろっくねこが言い淀んだ。その表情からは何かを読み取ることが出来ない。だけどなんとなく、僕の心に引っ掛かる。 「行ってみよう!」  ろっくねこの手を引っ張って、人混みの一角へ歩いてゆく。もふもふとした手ではない、人工物の感触はひんやりと心地好い。大人しく僕についてくるろっくねこは、やがて手を繋いだまま僕を追い越した。  音楽が聴こえた。  楽器屋の入口付近でデモンストレーションを行っているのか、メロディが耳に飛び込んできた。  見覚えのある二足歩行のつるりとしたねこが、ギター? ベース? 僕にはよくわからないけど、弦楽器を器用に演奏していた。   「ん、あれって」 「あれはろっくねこです」 「ろっくねこはキミでしょ」 「LとRのろっくねこがいます。ねこはLです。あれはRです」 「えーと……」  ちょっと言っている意味がわからない。首をひねって考えていたら、ろっくねこはしっぽをぴたんぴたんさせた。 「Rock cat」 「うわ、頭来るほど発音がいいね。……兄弟かなんか?」 「ろっくねこはロックと呼ばれる音楽を奏でます。ねこの兄弟と思われるのは心外です。まったく違います。ねこはまーちゃんのご家庭の安全を約束しますが、ろっくねこは違います」 「ややこしいよ。もうどっちがどっち」  恐らく発音が違うのだろうけど、LとRの差が僕にはまったくわからない。ろっくねこは困惑している僕をじっと見て、またしっぽをぴたんぴたんさせた。
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